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◆日朝懸案問題への取り組み方
 すでに日朝交渉の話題に入ってしまったようです。今回、再開後の第一回本会談を見ていて感じたことは、交渉に臨む日本と北朝鮮の立場の相違がはっきりと出たということです。北朝鮮側が非常に強く要求したのは、過去の清算、すなわち「徹底した謝罪と十分な補償」でありました。会談の進め方にも優先順位があります。日朝交渉はそもそも過去を清算するための交渉であるのだから、まずそれを解決してくれということでした。そうすれば、その他の問題も順次解決されるだろうという主張が展開されたわけです。その限りでは、北朝鮮側の交渉にかける意欲は相当に強かったようです。日本の外務省関係者も、そのように説明しております。
 他方、日本側としては、過去を清算することはやぶさかでない。それが補償なのか、請求権なのか、経済協力なのかは別として、謝罪をして金銭的な補償をすることもやぶさかではない。しかし、両国が抱えている懸案、特に拉致疑惑やミサイルの脅威が解消されないことには国交正常化はできない。これらの問題は並行して協議されて、最終的には一括して解決されなければならない。これが日本側の態度だろうと思います。北朝鮮側が主張しているように、過去を清算してから次の問題に移るということでは、国交正常化と経済協力だけが先行して肝心の問題が棚上げされてしまうかもしれない、こういう懸念を日本側は持っているのです。
 南北首脳会談についての合意を受けて、北朝鮮が日本との関係正常化にさらに積極的になり、拉致疑惑やミサイルの問題で目に見えるような譲歩をしてくれる、その上で正常化を進めましょうというのであれば、それは日本側にとってもたいへんに望ましいことであり、交渉もスピードアップされるでしょう。しかし、北朝鮮側がそうするでしょうか。逆に日米韓の分断を企図して、韓国の力を借りながら日本に圧力をかけて、拉致疑惑やミサイル問題を棚上げしたまま関係正常化を実現して、経済協力を獲得しようと考えているのではないか。そうだとすれば、日朝交渉は容易に進展しないだろうということになってくるわけです。その意味で、五月下旬に予定される本会談で、北朝鮮側がどちらの主張を展開するかが注目されます。
 いずれにしましても、これまでは日朝国交正常化に必ず反対して、ブレーキをかけてくれた韓国が、そうではなくなっております。したがって、北朝鮮側の出方によっては、われわれとしても具体的に、それこそ経済協力の金額まで議論しなければならないような状況が出てくるかもしれない。そのあたりが従来とは随分違うところではないでしょうか。当然、拉致疑惑やミサイル問題でわれわれが要求するボトムラインはどのあたりなのかという議論もしていかなければいけないだろうと思います。北朝鮮側がどこまでやってくれたら日朝交渉を前に進めるのかということです。
 常識的に考えて、私は拉致疑惑もミサイル問題も、一挙にすべて解決することはないだろうと予想しております。七件十人、その他もあるようですが、そういう人たちが一斉に同じ飛行機に乗って日本に帰ってくる、あるいは、スカッドミサイルからテポドンに至るまで一斉に廃棄されるというようなことは想像し難いのであります。しかし日朝交渉との関連で、どこまでいったらわれわれは最低限満足して、次の段階に進むことができるのかということではないでしょうか。
 もちろん、最終的にはすべての人が帰ってこなければならないと思いますし、朝鮮半島の外に向けられたミサイルはすべて廃棄されなければならないと思っております。そのように思っておりますが、拉致疑惑に関して言えば、何よりも重要なのは、被害者の安全や所在が確認されて、日本の御両親や御家族が北朝鮮に行って、あるいは第三国でもいいですが、御本人と面会できるような段階まで持っていくことではないでしょうか。その後、国交が正常化され、日朝間に友好的な交流が盛んになれば、被害者が日本の故郷を訪問したり、永住帰国することも可能になるでしょう。いずれにせよ、自由往来が実現されればよいのです。
 ミサイルに関して言えば、テポドンミサイルはアメリカに向けられたものでありますから、それよりは、日本を標的とする中距離ミサイルであるノドンが着々と配備されていることが脅威です。ノドンミサイルは、中国やロシアに向けられたものではありません。北朝鮮と中ソ両国との間には同盟条約なり友好条約が結ばれているわけですから、これは明らかに日本に向けられたものです。日本との関係を正常化しようとしているときに、その配備を続行するのはいかがなものかという問題提起は十分に可能だと思います。すでに配備されてしまったものをどうするのかと言われれば、やがて地域的なミサイル管理レジームが形成されていく過程で、それらも撤去してもらうことになろうかと思います。
 
 
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