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◆首脳会談の日米韓協調への影響
 日米両国政府は一様に南北首脳会談に歓迎の意を表明しております。事実、米朝交渉が進展する間、アメリカ政府の最大の悩みは南北対話が復活していないことでした。議会からも、韓国政府からも、強い圧力を受けていたのです。日本としても、日朝交渉が再開されるのに、南北対話が途絶したままでは困ります。その意味では、対話であれ抑止であれ、三国の足並みが揃っていることが望ましいのです。
 しかし、もし韓国が安全保障やテロリズムの問題を棚上げにしたまま、経済分野を中心に北朝鮮との関係を急速に深めていけば、そのことが日米韓の共同歩調を乱さないでしょうか。あるいは、せっかく三国間で調整されたペリー・プロセスはどうなるのでしょうか。例えば一方で大規模な経済支援を実施しながら、他方で核開発、ミサイル開発そしてテロリズムの放棄を迫ることが可能でしょうか。アメリカが経済制裁を維持している間に韓国が大規模な経済援助を提供すれば、グローバルな目標を達成するためのアメリカの努力が無効化されてしまいます。
 日本にとっても、同じことが言えるかもしれません。首脳会談が開かれて、韓国の経済援助が北朝鮮に入っていくという状況になりますと、資金問題もあって、日朝交渉の早期妥結に対する期待感が南北双方で高まるでしょう。北朝鮮側の期待感についてわれわれはよく知っているわけですが、南北間の経済協力が進展すれば、北だけではなくて南でも、日本の資金が必要だという主張が出てくるのではないでしょうか。簡単に言ってしまえば、韓国側からも日朝会談を早く妥結させてくれという要請が出されてくるかもしれません。
 拉致疑惑についても同じです。今回、韓国を訪問した際に、いろいろな人から受けた質問の一つは拉致疑惑に関するものでした。それで私も驚かされたのですが、日本はなぜ拉致疑惑にそんなにこだわるのかというのです。本当に証拠はあるのですか。証拠もない小さな問題に拘泥して、大局を見失っているのはないですか。それが日朝交渉の最大の障害であるというのは、どうしても理解できない、というような質問が多数ございました。
 韓国人から見れば、そうなのかもしれません。彼らも同じような事件をいっぱい抱えております。そういう意味では、拉致された人は十人や二十人にとどまらない。何百人もの人が拉致されているわけです。にもかかわらず、首脳会談を開催し、大規模な経済援助を実施しようとしている。しかし、日本では拉致疑惑の解決は譲ることのできない国民的な課題になっております。理屈ではなく、感情の問題なのだと説明せざるを得ないような状況が存在します。
 
 
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