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◆問題点の多い合意文書の文言
 南北首脳会談についての合意文書についても、いろいろな問題点が指摘できます。例えば韓国側が発表した合意文書と北朝鮮側が発表した合意文書には微妙な文言の違いがあります。正式の合意文書が二つあり、南北の代表がそれぞれにサインしているのです。互いに譲れないところについては、そのまま発表してよろしいという合意があったそうです。したがって、どこに違いがあるのかを確認してみれば、両者の対立点がわかって、面白いのであります。
 まず第一に、南側の発表文では、「金正日国防委員会委員長の招請により、金大中大統領が・・・平壌を訪問する」となっておりますが、北側の発表文では、「金正日国防委員会委員長の招請により」ではなく、「金大中大統領の要請により」という文言が使用されており、金大中大統領が要請したから受け入れたのだという意味合いが強く出ております。したがって、金正日総書記が自ら要請しない限り、北朝鮮の最高指導者が韓国に行く必要はありません。
 第二に、金正日氏の肩書きですが、南側の発表文では、「金大中大統領と金正日国防委員長との間で歴史的な出会いが実現し、南北首脳会談が開催される」となっていますが、北側の発表文では、ここに一つ冠がございまして、「朝鮮労働党総書記である金正日国防委員長と金大中大統領の間に・・・」となっているのです。なぜわざわざ「朝鮮労働党総書記である」という形容を挿入したのだろうかということが問題になります。簡単に言えば、金正日氏は国家の最高指導者としてではなくて、朝鮮労働党総書記として金大中大統領と会おうとしているのではないかということです。また、合意文書自体も、南側は朴智元文化観光相という政府閣僚が署名しておりますが、北側はアジア太平洋平和委員会、つまり労働党統一戦線部の下部機関の副委員長である宋浩敬氏が署名しております。
 韓国の研究者の間には、首脳会談についての表現を問題視する意見もございます。どのあたりが問題かといえば、二人の間で「歴史的な出会いが実現し、南北首脳会談が開催される」という最も重要な部分でありまして、なぜ「歴史的な出会い」と「南北首脳会談」を二つに切っているのかという疑問が提起されているのです。つまり、二人が出会うことと、首脳会談が開催されることが別のことのように読めるではないか、首脳会談というのはひょっとしたら金大中大統領と金永南最高人民会議常任委員長の会談を指すのではないか、こういう疑問が提起されているのであります。
 以上が二つの合意文書に関連する話であります。総じて言えば、北側が南側を対等な交渉当事者として本当に認定したのかどうか、若干の疑問が残るということでしょう。彼らのイデオロギーによれば、金正日総書記は民族の最高指導者であって、当然、北と南の両方をカバーしているわけですから、金大中大統領を対等の当事者として認めてはいけないのかもしれません。二人の最高指導者が会談するという歴史的な出来事と比べれば枝葉末節なのかもしれませんが、見過ごすごとのできないエピソードではあるでしょう。
 
 
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