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◆経済的な相互依存が発生するか
 さて、この会談の歴史的な意義についても、いろいろ議論されております。両国の最高指導者が初めて会談すること、それ自体に十分に歴史的な意義があることは間違いありませんが、その結果、南北関係がどう変わるのかということが重要だろうと思います。もし本当に大規模な経済援助が南から北に提供されるとすれば、それが南北間にある種の経済的な相互依存を発生させるでしょう。かなりの規模の資本や技術が入るとすれば、いったん入ったものを撤回することは不可能になります。他方、それを受け取った側も、一度受け取れば、それが中断されることに耐え難くなります。したがって、経済的な相互依存が発生するわけです。
 最小限でも、韓国から北朝鮮に何十万トンかの肥料や石炭が提供されるでしょうし、食糧も提供されるかもしれません。そうなれば、当然、北朝鮮側としては来年もそれを継続してほしいと思うでしょう。それ以上のインフラ投資がなされることになれば、両者の結びつきはますます深まっていきます。五十年間の南北分断状況を考えた場合、それが最も大きな歴史的変化であると申し上げていいと思います。さらに、経済的な相互依存は当然政治にも安全保障にも影響を及ぼしていくだろうと思います。
 北朝鮮側が意図しているのは、韓国の経済力を借りて経済を再建することだろうと思いますが、長期的に見れば、これには非常に大きなリスクが伴います。大規模な資本や技術を受け入れても、北朝鮮内部に社会的な動揺は起きないだろうか。外部の情報が入っていったときに、北朝鮮は本当に経済再建と政治安定を両立させることができるだろうか。長い目で見た場合、それが体制変質を促すのではないか。当然こういう疑問が出てくるわけです。そのあたりを十分に知ったうえで決断したのですから、長期的にであれ、北朝鮮指導部は相当のリスクを負ったことになります。
 もちろん、短期的にはほとんど問題ないでしょう。九八年夏の最高人民会議とテポドン打ち上げ以来、金正日指導体制が確立し、その後も政権基盤がさらに強化されたからこそ、南北首脳会談のような重大な決定がなされたと見て間違いありません。今回、金大中大統領という世界的指導者を平壌に迎えることによって、金正日総書記は自らも父親に劣らない偉大な指導者であることを演出するに違いありません。
 他方、金大中大統領は『東亜日報』のインタビューに、中東特需をはるかに上回る北朝鮮特需があると答えていました。中東特需というのは、第一次オイルショックの後の中東建設ブームのことですが、このときの特需は約五十億ドルと言われました。ですから、それを上回る特需が本当にあるとすれば、北朝鮮には資金も信用もありませんから、韓国が相当規模の政府借款や信用供与を提供しなければなりません。当然国家予算に関係しますから、野党の同意が必要になります。しかし、過半数に近い議席を持つ野党のハンナラ党は「相互主義」という原則を掲げていますから、それほど簡単に一方的な経済援助を許さないだろうと思います。
 次に能力的な限界について言えば、本当に今の韓国にそれだけの余裕があるのだろうかという疑問もあります。総選挙が終わった後、すでにいろいろな議論が出ておりますが、どう考えても、約九億ドルの政府資金(南北交流協力基金)だけでは足りない。相当規模の民間投資がなければならない。それでも足りないところは国際機関や外国の協力を仰がざるを得ないだろう。いざとなったら、日本の国交正常化資金もあるではないか、というような議論が出ております。
 
 
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