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◆五
 このような対立をかかえている日本が韓国とワールドカップ二〇〇二を共催するとすれば、めざすべきは南北と日本の三者会談を開いて北朝鮮に大会の開催を支持してもらうことだが、そのためには日朝間で国交交渉を再開することが必要となるであろう。それには何が必要か。
 北朝鮮側は日本が朝鮮を植民地として支配したことに対する「過去の清算」をおこなうこと、「謝罪と補償」がなされなければならないと主張してやまない。特に「補償」の問題が交渉再開の鍵となっている。
 まず謝罪については、一九九五年八月一五日の村山首相の総理談話は、以後の橋本、小渕、森、小泉内閣においても、政府の基本的認識と認められている。その精神にもとづき、一九九八年には日韓共同宣言が出されたのである。したがって、村山談話にもとづき、「植民地支配」を通じて朝鮮国民に「多大の損害と苦痛をあたえた」ことを認め、それに対して「痛切な反省」をおこない、「心からの謝罪」を表明することは当然になされなければならず、またそうすることが可能である。このことを日朝条約前文に明記するつもりで進むことが必要である。
 いわゆる補償については、日朝両国政府の立場に懸隔がある。日本政府は、日韓方式、経済協力ということで対処したいと北朝鮮側に打診ないし協議をもちかけたと考えられている。北朝鮮側は、はげしくこれに反発した。「経済協力」というのは、対等の国家間の間に行われるものであるのに、日本がしなければならないのは「義務」なのだというのである。
 この点について考えるべきことは、「補償」という言葉を恐れる必要はないということである、村山談話に立脚して、植民地支配によってもたらした被害と苦痛を認識し、それに対して反省、謝罪を行うのであれば、その被害と苦痛に対して何らかの償いの措置をとることは道徳的に当然だということになるだろう。だから、日本がする何らかの支払いは「償い」、「謝罪をあらわす行為」、「謝罪の精神に立ってする支払い」などと表現するのがよい。謝罪なき日韓条約と謝罪のある日朝条約では、支払のかたちと説明は違うのがむしろ当然である。
 その内容は「経済協力」と言われている、財およびサーヴィスの提供を中心にすることがのぞましいのではないだろうか。北朝鮮の経済発展に役立つプラントの提供、インフラの整備をおこなうのがのぞましい。金額はなんらかの方法で、韓国に対する支払額と調整することになるだろう。
 日朝国交樹立の第二の課題は、過去半世紀にわたる不正常な敵対関係に終止符をうち、正常な国家関係をはじめることである。正常な国家関係とは、二〇〇〇年に北朝鮮がロシアおよび米国と結んだ外交文書に表現されている。二〇〇〇年七月一九日の朝露共同宣言では、まず国連憲章の目的と原則を尊重することをうたい、それぞれの国の独立と自主権、領土の保全を尊重し、あらゆる国際テロに反対し、それとの闘いで協力すると明記している。そこで、日朝間でも次のような諸点を誓約することがのぞましい。(1)国連憲章の原則を尊重すること、(2)内政干渉、主権侵害、領土の侵犯をおこなわないこと、(3)ともにテロリズムに反対すること、(4)自国内にいる相手国民の安全を保障し、人権を不法に侵害しないこと。この最後の点に関連しては、在日朝鮮人の権利を尊重すると同時に、在朝日本人の権利が尊重されることを求めるということである。
 さらにこれに伴って、過去五〇年間に存在した不正常な敵対状態が生み出した結果のうち、救済できるものがあれば、救済するとの原則を相互確認し、その面での交渉を行うことが必要である。いわゆる「拉致疑惑」問題はこの枠の中で交渉することが可能になると思われる。
 
 
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