1997年8月号 『This is 読売』
朝鮮半島乱気流
北朝鮮ズバリ全予測
―――内外専門家15人が読む
吉田康彦
十年後、朝鮮半島はどうなっているのか。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金日成主席が死去してから、この七月八日でまる三年。まもなく金正日書記が国家主席と党総書記に就任し、金正日時代が正式にスタートすると言われている。食糧危機、幹部の亡命などの中の苦難のスタートだ。
北朝鮮は情報のブラックボックスで、専門家の分析も立場によって様々だ。それでもその実態と問題に迫るには、様々な分析を手掛かりに象をなでるほかない。そこで、内外の専門家十五人の予測と意見を聞いた。
六つの質問
(1)金正日書記は金日成主席没後三年を経て、国家主席、党総書記に就任するとされるが、国内の困難が増す中、体制が固まらず就任できないとの見方もある。どう見るか。
(2)五年後の二〇〇二年、十年後の二〇〇七年、朝鮮半島はどうなっていると予測するか。
(3)食糧援助問題には、どう対処すべきか。
(4)韓国、米国、日本、中国の今の対応ぶりをどう見るか。
(5)日本は、日本人拉致疑惑などの問題を抱えている。北朝鮮当局に説明を求めても、回答は返って来ない。何か方策があるか。
(6)沖縄の米海兵隊の存在を、北朝鮮への抑止力、防衛力として、どう評価するか。
“カヤの外”の日本
(1)体制固めは出来上がっている。金書記が昇格しないのは、金日成の遺訓統治をギリギリまで引き延ばすことで、党と軍部の忠誠心を一本化する狙いだった。
(2)五年後にはまだ大変化はない。北は崩壊しない。南北対話が進み、人的交流が盛んになり、豆満江開発計画も本格化し、KEDOによる軽水炉建設もかなり進展しているだろう。現在の食糧危機を乗り切れば軟着陸の可能性が高まる。十年後の予測は困難だが、一民族二制度の平和統一に向かって着実に進んでいるか、南による北の平和的吸収合併が実現しているかのいずれかだろう。平和と安定は、北の政治体制と指導者の面子をどこまで認めるかにかかっている。
(3)食糧援助には二つある。一つは国連諸機関が呼びかけている緊急人道援助。飢えに苦しむ民衆を助けるもので、日本も応分の負担をすべきだ。もう一つは長期間の継続的援助で、日朝間の懸案解決、国交正常化交渉の成り行きなどをにらみ、戦略的に実行すればよい。米国は両者を巧みに使い分けている。
(4)韓国の金泳三政権は国内問題から国民の目をそらすため、北の脅威を利用している。新大統領選出まで南北対話進展は望み薄。米国は着実に軟着陸政策を進めている。米朝間には基本的に信頼関係が存在する。中朝関係は冷えているが、中国は北の崩壊阻止のため全力支援。この構図は今後も変わらない。日本だけがカヤの外。外交に主体性がない。
(5)新潟の少女拉致事件は韓国安企部の謀略であり、北の犯行だとしても亡命工作員の伝聞が根拠で、証拠能力が低い。拉致したという元工作員の特定など事実関係を究明し、時間をかけて解決を図る以外ない。日本人妻の一時帰国の方が実現性があり、打開の糸口となろう。
(6)沖縄の海兵隊は無用の長物。米本土に引き揚げさせるべきである。万一、朝鮮有事の場合も、本土からの展開は容易にできる。
著者プロフィール
吉田康彦(よしだ やすひこ)
1936年、東京生まれ。
東京大学文学部卒業。
NHK記者を経て、国連本部主任広報官、国際原子力機関広報部長、埼玉大学教授を歴任。
現在、大阪経済法科大学教授。
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