◆着々と動き出す米中
心許した相手に対する指導層の様変わり、柔軟な対応には目を見張るものがあるが、彼らは本当に自信があるのか。自信というより信念だろう。朝鮮労働党は、人民に抗日パルチザン時代のような「苦難の行軍」を呼びかけ、団結と忍従を説き続けているが、出口はあるのか、ゴールは見えるのか。私はイエスと答える。日本のメディアは暴発と崩壊の可能性を囃し立て、危機感を煽るが、朝鮮民族の忍耐強さは日本人の比ではない。それと、問題は米中両国の出方にある。米中とも、食糧危機がさらに深刻化したら、本格的援助に乗り出すだろう。米国はもともと民間主導の国だ。ユージン・ベル財団を筆頭に人道支援のNGOが着々と動き出しており、国境地帯に二百万人近い朝鮮族を抱える中国は、すでにコメの大量援助を始めている。過去一年間に七十万トンのコメ、その他の穀物が北朝鮮に届いており、私が訪れた被災地には、「中国製」と大きく印刷されたコメ袋を抱えた村民が家路につく光景が見られた。「暴発だ、崩壊だ」と騒いでいるうちに、日本だけがカヤの外に置かれる日が遠からず訪れるように、私には思われる。
著者プロフィール
吉田康彦(よしだ やすひこ)
1936年、東京生まれ。
東京大学文学部卒業。
NHK記者を経て、国連本部主任広報官、国際原子力機関広報部長、埼玉大学教授を歴任。
現在、大阪経済法科大学教授。
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