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◆対応、二年前と隔世の感
 二年前、金日成主席死去直後の訪問の際は、立ち止まってカメラを回し始めると通訳が飛んできた。村道を走る木炭車、ハダシで歩く子供たち、制服を脱ぎ肩にかついで道路をトボトボ歩く人民軍兵士、図書館(人民大学習堂)で顔を伏せて眠っている学生、バス停の行列に割り込んで先に乗ろうとする市民などはすべて「わが共和国の恥である」として撮影を禁じられ、制止されたことを思えばまさに隔世の感がある。
 北朝鮮では金正日書記以下エリートも下層階級も、外部世界と外部からやって来た人間に対しては、なかなか猜疑心、警戒心、敵がい心を解かない。朝鮮社会特有の伝統的かつ封建的儒教道徳、排他的かつ強烈な民族意識、ソ連・東欧圏崩壊後の孤立感、朝鮮半島における被包囲意識・・・などの複合体なのだろう。主体思想による全人民の思想統一が、それに輪をかける。
 水害による穀物生産への影響つまり損失量は九五年が百九十万トン、九六年が百五十万トン(総需要は六百七十万トン)と推定されている。絶対量としてどのくらい不足なのかがいまいち不明確だが、韓国が一時主張したように、需要は何とか満たしており、援助は軍隊の備蓄にまわるという生易しい状況ではないことだけは確かだ。首都の平壌でも配給が一か月以上遅れ、コメの支給は半分以下(量は一概に言えない)に減ったという。
 国際的支援は、九五年に引き続き九六年もいまのところ芳しくない。九五年は二千万ドルの国連の目標に対し八百万ドル台に終わった。九六年は六月の四千三百六十万ドルの第二次緊急呼びかけに対し千八百万ドル以下で、目標額の半分にも達していない。この調子では、収穫期の秋までに全人民の三分の一が栄養失調になる、もちろん餓死者も出る、と世界食糧計画(WFP)の専門家は警告する。「餓死者続出」は、韓国への亡命者が針小棒大に誇張している傾向があるが、国連関係者も九五年暮れあたりからしきりに流している意図的リークだ。国際世論喚起のためのアピールで、国連当局者が「もっと出してくれ」というメッセージを発しているものと受け取ってよい。欧米諸国は人道的援助には敏感だが、地理的な遠さが禍し、まだ反応が鈍い。
 
 
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