◆水害の実態と崩壊神話
北朝鮮は、二年連続して広範囲にわたる大水害に見舞われた。九五年が被災者五百二十万人、被害総額百五十億ドル、死者・行方不明七十名。九六年が被災者三百二十七万人、被害総額十七億ドル、死者・行方不明百十六名。双方の数字を比較して気がつくのは、今年の方が現実的で、真実に近いと思われることだ。
去年の被害総額は、北朝鮮の年間国内総生産(GDP)の四分の三にも達する数字で、いかにも多すぎる、その割に死者・行方不明が少なすぎる、犠牲者は三百名に達しているはずだというのが、国際赤十字社・赤新月社連盟平壌事務所長の分析だった。これに対し今年の数字が妥当な線だったのは、北朝鮮当局者が「粉飾決算」では国際的支援が得られないことを理解したからではないか、という国連開発計画(UNDP)駐在員の見方を紹介しておこう。集計結果の発表も今年は実に早く、去年は三週間以上たってから事実を公表したのに対し、今年は一週間足らずのうちに詳細なデータをまとめ、国連機関や国際非政府組織(NGO)などにFAXで送信サービスする手際のよさだった。
私は去年も今年も平壌の南の北朝鮮最大の穀倉地である黄海北道の被災地を訪れ、現地視察をした。去年は被災後数か月を経ていたが、今年は被災の一週間後で、訪れた村(里)は、近くを流れる河川の堤防の決壊でほぼ全域が水没し、(一九六頁の写真)稲作は全滅に近く、村民は途方に暮れていた。ビデオカメラを向けても村人が顔をそむけず、通訳兼ガイドも阻止せず、家の中に招き入れてくれた。部屋は薄暗く、家具は少なかったが、貧しいながらもこざっぱりとした生活ぶりを思わせるものだった。
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