◆世界における立場は圧倒的に不利なまま
現在、米朝国交正常化も日朝国交正常化も実現していない。米朝国交正常化は、クリントン政権のレームダック(死に体)化で停滞している。おそらく次期政権に持ち越しとなるであろう。
そこで北朝鮮は方向転換し、イタリア、豪州、フィリピン、カナダなどとの国交正常化に乗り出し、全方位外交を展開、中ロ両国との関係改善に動いている。
日朝国交正常化交渉は、九九年一二月の村山訪朝団による両国関係の“環境整備”を経て、今年四月に平壌で七年五ヵ月ぶりに再開されたが、日本人拉致疑惑(行方不明者の帰還)とミサイル問題がトゲとなって無期延期状態にある。
北朝鮮は日本に対し、植民地時代の「過去の清算」を最優先させ、謝罪と補償を要求しているが、日本は応じていない。
南北分断を固定化したのは朝鮮戦争だ。北緯三八度線をはさんで南北は休戦状態にあるにすぎず、平和条約は結ばれていない。在韓米軍はこの時、北朝鮮・中国人民軍と戦った「国連軍」である。
この変則的状況が是正されない限り、北朝鮮が核(開発能力)とミサイルを放棄することはありえない。
日朝国交正常化交渉で、日本が凍結や廃棄を要求して北朝鮮が応じるほど容易な問題ではない。また金大中大統領が三日間の平壌訪問で金正日総書記相手に「話題として取り上げて」解決するほど単純な問題ではない。
北朝鮮が置かれている立場は圧倒的に不利なままなのだ。この視点を忘れてはならない。
クロス承認という言葉がある。朝鮮半島の平和と安全保障のために、ロシアと中国が韓国を承認、米国と日本が北朝鮮を承認し、国交を正常化してバランスをとるという発想である。前者は冷戦終結後いち早く実現したが、後者は一〇年を経て、いまだに実現していない。米国は北朝鮮を「テロ支援国」とする認定も解除していない。
南北和解と協力が進むのは好ましい。しかし、それだけで朝鮮半島の冷戦構造が解消することにはならないのだ。
著者プロフィール
吉田康彦(よしだ やすひこ)
1936年、東京生まれ。
東京大学文学部卒業。
NHK記者を経て、国連本部主任広報官、国際原子力機関広報部長、埼玉大学教授を歴任。
現在、大阪経済法科大学教授。
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