2000年6月23日 『週刊金曜日』
南北首脳会談
「南」との和解だけではミサイル放棄はありえない
吉田康彦
平壌の南北首脳会談成功は快挙だった。欧米のメディアもこぞってヘッドラインで報道した。
韓国のテレビ取材クルーが同時中継した映像は、金正日総書記の素顔と肉声をソウル、東京、ワシントンに伝え、彼自身の言葉によると、「隠遁生活から」外交のひのき舞台に引き上げた。
視聴者が一様に感じたものは「快活で、饒舌で、ユーモラスで、気配りの行き届いた指導者」という印象だった。この副産物は大きい。五月末の電撃的な中国訪問に続いて、金大中大統領一行を迎えた平壌の三日間は、金正日総書記を「普通の人間」にした。しかし、彼が「神秘のヴェールを脱いだ」という見方は正しくない。彼は「謎の人物」ではなく、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の民衆に愛され、親しまれている。北朝鮮国内では定着している実像が今回、外部世界に知られたに過ぎない。
南北首脳会談は北朝鮮の崩壊神話を払拭し、南北共存から平和統一の展望を切り開いた。
その結果、金大中大統領の言葉を借りれば、「平壌もソウルも同じ国であり、同じ血の通っている民族の地」であることが確認された。分断後五五年を経て、初めて朝鮮民族自らの意思で、主体的に平和統一を模索する道を開いたことは意味がある。
金=金の信頼関係が成立、ホットラインも通じることになった。お互いに威嚇と侵略の自粛を誓い合った。離散家族再会の合意も生まれた。ソウル市民も在日韓国・朝鮮人も狂喜し、感涙にむせんだ。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。