日本財団 図書館


◆現実を見ない「軟着陸論」
 最後に、このような北朝鮮情勢にわが国はどう対処するのが正しいのか、ということだが、過去も現在もわが国を支配しているのは、“北朝鮮をいかにして軟着陸させるか”である。
 なぜ、こんな非現実的な馬鹿馬鹿しい主張が大手を振っているかといえば、これらの人たち(政府も当然含まれる)に共通していることは、北朝鮮、特に、金日成父子独裁政権の分析がまったくないことである。言葉をかえていえば、交渉相手がどんな人たちで何を考えているかを知ろうともしないで、こちら側の価値観や都合で、北朝鮮を「改革・開放」に誘導しなければならないという主観をただただ果しなくのべ続けているだけである。
 朝鮮労働党の動向を追跡していたなら、金正日トップ就任問題で、八・一五(解放記念日)だ、それが駄目になると九・九(建国記念日)だ、それがはずれると十・十(党創立記念日)に就任する――と果しないミスリードを続けるようなことにはならない。
 いわゆる「専門家」などどうでもよいが、政府内で北朝鮮問題を分析している国家公務員の責任を不問に付すことはできない。彼らの誤った分析に基づいてわが国政府の北朝鮮政策が決定されているからだ。
 今回のコメ五十万トンの事実上の無償援助の決定は「北朝鮮は安定している」「権力の継承は順調に進んでいる」などという、まったく現実とは無関係な誤った分析によって決定されたものである。その結果、輸入価格で三百六十億円のコメを独裁ファッショ政権に寄付してやることになったのだ。
 コメをただでやれば、日朝交渉が再開されると外務省幹部をはじめ政府与党の幹部たちは口を揃えていっていた。一体、日朝交渉はいつはじまるのか。国民に答える義務がある。南北交渉はいつはじまるのだろう。間違った分析によって、日韓は、六十五万トンのコメを金容淳書記にただ取り上げられたのだ。そして誰一人その責任をとろうとしていない。
 前述のように朝鮮人民軍は、「座して死ぬか戦って死ぬか」の瀬戸際に立たされている。駐韓米軍は、北朝鮮軍は、三日から七日間の戦闘能力をもっているとみている。短期決戦でソウルを占拠、それを人質に休戦交渉に出てくる可能性があると分析している。
 それなのに外務省がカネを出し発刊している『外交フォーラム』(十一月号)誌上でこの期に及んでも北朝鮮を軟着陸させる必要性が声高に語られている。なんという錯誤だろう。北朝鮮そのものの分析のない論議の行くつく先の典型をここにみることができる。
 あってはならないことであるが、もし第二の朝鮮戦争にでもなったら、この人たちの責任を不問に付すことはできない。それにしても、こんな政府にわれわれの安全が握られていると思うと暗澹たるものがある。
著者プロフィール
佐藤勝巳(さとう かつみ)
1929年、新潟県生まれ。
日朝協会新潟県連事務局長、日本朝鮮研究所事務局長を経て、現在、現代コリア研究所所長。
「救う会」会長。
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION