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◆日本は慎重に対応すべきだ
 いま、政府与党は、日本などがカネを出せば、北朝鮮が中国のように改革開放政策に移行していくだろう、という分析抜きの願望で、KEDOへの出資や日朝交渉を再開しようとしている。
 わが国政府の朝鮮政策の最大の問題点は、北朝鮮そのものについての分析がないことである。紙数の関係で議論はできないが、二月十六日は金正日の誕生日であった。二月十七日の産経新聞によると、外務省高官は、金正日はトップには就任しなかったが、権力の継承は順調に進んでいる、と話していたという。
 金正日が金日成の後継者に決定されたのが二十一年前だ。誰もが、昨年七月二十日後の最も早い時期にトップに就任すると思った。ところが、今日唯今も就任していない。昨年四月以来、党中央委員会も日本の国会に当たる最高人民会議も開かれていない。一月一日には、金日成が毎年行っていた「新年辞」という名の施政方針演説もなかった。
 毎年四月には、党中央委員会と最高人民会議を開催、国家の予算・決算を審議、決定してきた。それも今年はない。つまり、金日成が死亡した後、党と国会の機能は停止しているのだ。予算・決算のない国家を果たして国家などと呼ぶことができるだろうか。
 それでもなお、わが外務省は、「権力の継承問題は順調に進んでいる」と公言してはばからないのである。金正日がトップに就任するのは、金日成の「遺訓」であるから、いずれ就任するかも知れない。現在トップに就任していないが、実権は仮に彼の手にあったにしても、国家の予算・決算よりもプロレス大会(服喪中といいながら、四月下旬、外国人一万人をピョンヤンに集め、日本の猪木参議院議員率いるプロレス大会を行うもの)の方が重要で、それに入れ込んでいる人物が、国家のトップに就任したからといって、北朝鮮国民がより一層不幸な状況に陥るだけのことではないのか。
 外交のプロフェッショナルの北朝鮮認識がこの程度なのだから、政治家などわかろう筈がない。なぜこんなことが起きているのかといえば、日本も韓国と同じなのだが、この五十年間、米国の庇護の下で生活し、政治家も官僚も、自分が分析・判断を誤ったなら一億二千万の生命財産が失われるという緊張感に一度たりともさらされたことがないからだ。それに加えて、目先の利益のみに目が向いているから平気でこんな無責任なことをいっていられるのだ。
 しかし、北朝鮮の核問題では、前述のように基本的には米国に依存できないのに、依然として依存できるかのような錯覚にとらわれ、KEDOにカネを出し、日朝交渉を早期に妥結させ、経済援助をするなどといいだしているのだ。
 このような考えのナンセンスさは、北朝鮮の韓国型軽水炉拒否理由をみれば明白だ。北朝鮮に韓国をはじめ経済援助にともなう西側の情報が入ったら、個人独裁体制は瞬時にして崩壊してしまう。現状でも、改革開放でも、北朝鮮の現体制の崩壊は避けられないのである。
 いま、日本は動いてはならない。いわんやどんな名目でもカネなど出してはならない。動くときは、現体制が変わってからでも遅くない。仮にも現体制を支援するような動きをすれば、税金の無駄使いとなり、現体制が崩壊した後、北朝鮮国民から、「独裁ファッショ政権」を支持したとして、新たな「反日」材料を提供する愚を犯すことになるからである。
 その具体的な証拠は、この度の与党訪朝団の随員の一人に、吉田猛新日本産業社長(帰化した元在日朝鮮人)が、衆議院議員加藤紘一事務所の名刺をもって加わっていることだ。吉田氏は、一九八九年韓国大企業「現代」の鄭周永会長を手引きして北朝鮮に入国させた人だ。また金丸・田辺訪朝団にも関与したといわれ、その筋では「有名」な人物だ。
 与党は、このように北朝鮮と特殊な関係にある人物を団員に加え、北朝鮮と交渉するという前代未聞のことをやってのけたのである。
著者プロフィール
佐藤勝巳(さとう かつみ)
1929年、新潟県生まれ。
日朝協会新潟県連事務局長、日本朝鮮研究所事務局長を経て、現在、現代コリア研究所所長。
「救う会」会長。
 
 
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