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◆“重大放送”は何を語るか
 今後の北朝鮮政局は、どうなるのかということだが、それに重要な示唆を与えているのが、九四年十一月九日の問題の「重大放送」事件である。内容は、金正日が、土木工事を促進しろと命令を出したというのだ。これがなぜ「重大放送」なのか、誰にもわからない。別なことを放送しようとしていたが、直前に差しかえられたという可能性は依然否定できない。
 仮に放送通りだとすれば、軍の司令官が、軍に命令できるのは当然としても、内閣に命令を出すなどありえないことだ。しかも、朝鮮中央放送(ラジオ)を使って全国民に直接呼び掛けるなど過去に一度もないことだ。
 また、金正日は、九四年十一月一日発表したという労働新聞に「社会主義は科学である」と題する長文の論文を四日付労働新聞が掲載している。この国でもっとも偉いのは軍でなく党だ。党の肩書をもたない(付けていない)ものが、重大放送だ論文発表だというのも、異常事態である。
 非公式情報によると現在、政治局のなかで金正日は現状のまま(金日成のとった措置)軍の司令官でよいとするもの六人。名目的であれ、党と国家のトップに就任させるべきだというものは五名といわれている。
 この情報が当らずとも遠からずなら、政治局の中が真二つに割れていることになる。そのためだろうか、最近、ピョンヤンから「金正日の年内トップ就任はない」という話が流れてきだしている。
 それなら党中央委員会総会と最高人民会議開催の可能性はゼロかといえば、そうともいえない。十二月は、例年この二つの会議を開き、一年間の全分野の活動を総括し、新年の方針を決めてきた。それを金日成が「新年辞」として発表してきたものである。当面の最大の問題は、二つの会議がどうなるかである。
 可能性として、(1)二つの会議の開催はない。(2)開催し、総括と方針のみを決め、総書記選出は先送りする。(3)総括も方針も出し、金正日を総書記に選出する、の三通りがある。
 筆者は、(1)の可能性がもっとも高く、(2)(3)の順番であろうとみている。仮に、どれになったとしても、いま北朝鮮が直面している困難、特に現体制のままで、破綻した経済を打開する方法などはない。実現の可能性は最も低いと思われるが、金正日が党総書記にでも就任すれば、また「記念碑的大建造物」路線の推進となる。更なる経済の破壊となることは明らかだ。
 それにナンバー2の呉振宇の寿命も長くない。どちらに転んでも北朝鮮政局の流動化は避けられない状況にある。わが国は、「日朝交渉を急ぐべきだ」などと見当はずれのことをいっている暇などないはずだ。
著者プロフィール
佐藤勝巳(さとう かつみ)
1929年、新潟県生まれ。
日朝協会新潟県連事務局長、日本朝鮮研究所事務局長を経て、現在、現代コリア研究所所長。
「救う会」会長。
 
 
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