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1993年6月号 『正論』
北朝鮮の“狂気”を甘く見るな
佐藤勝巳
◆宮沢発言に見る脅威感覚の欠如
 宮沢総理大臣は、四月一日の記者会見で「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が核兵器を持つことはわが国への脅威であり、世界から隔絶された国なので危険だと思う。北朝鮮は、核拡散防止条約(NPT)を脱退しても得るものは何もないはずで、理解できない」とのべた。
 この宮沢総理の発言は、多くの日本人の考えを代表したものとみて差し支えないだろう。だが、北朝鮮がNPTを脱退した理由が「理解できない」という主張はわかるとしても、ことは国家の安全保障にかかわることである。このままとどまられては困るのだ。
 なぜ困るのかといえば、宮沢総理は右発言につづけて「正式脱退までまだ二ヵ月ある。北は何の益があるのかよく考えて欲しいし、我々もただ反論するのでなく、その環境をつくっていくべきだ」とのべている。また、同日総理は、韓国の韓昇洲外相との会談でも同趣旨の発言をし、日本、韓国、米国の協力が必要だとも述べている。
 それに対し韓外相は、北朝鮮に「私どもの考え方をきちっと伝えるのが大事。北朝鮮を追い詰めてはいけない。日本と協力しながら努力したい」と発言している。
 宮沢総理は、北朝鮮のNPT脱退の理由が理解できないといったあと「ただ反論するのではなく、その環境をつくっていくべきだ」との方針をのべているし、韓国外相はもっとはっきりと「北朝鮮を追い詰めてはいけない」といい切っている。
 相手の取った態度の理由も背景も不明のまま、差し詰め「(話し合いの)環境をつくっていくべきだ」「追い詰めてはいけない」という話は、責任ある政治家のいうべきことではないように思う。再言するが、北朝鮮が核兵器を所有することは、わが国への脅威にとどまらず、核拡散防止の歯止めが失われ、全世界の安全保障にとってきわめて深刻な事態を引き起こすのである。それに対する態度にしてはあまりにも安易すぎはしないだろうか。
 宮沢総理も基本的に同じことをいっているのだが、特に問題なのは韓国外相の「北朝鮮を追い詰めてはならない」「北朝鮮に国際社会と協力できる名分を提供することも必要」という発言だ。
 国連安保理は、そう遠くない将来、北朝鮮に対し経済制裁を決定するだろう。経済制裁は文字通り金日成政権を追い詰めることである。宮沢総理や韓国外相の主張は、潜在的には経済制裁に反対を表明しているもので、到底無視できない内容を含んだ主張といわねばならない。
 
 
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