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1991年6月号 『正論』
原則なき援助の危機 日朝国交交渉の拙速を憂う
佐藤勝巳
◆大まじめの“統一計画”
 五月には、北京で第三回の日朝交渉が開かれる。このときから本格的な交渉に入るわけだが、日本政府は、この交渉をどうしようとしているのだろうか。
 別ないい方をすれば、金日成政権と本気で国交を樹立しようと思って交渉を進めているのだろうか。
 昨年(一九九〇年)十二月二十六日韓国の国家安全企画部は、金日成の主体思想によって韓国政府を転覆し、共産統一をめざす地下組織「自主・民主・統一グルーブ」(略称「自民統」)を摘発した。
 このグルーブは、「金日成の九〇年新年辞などによれば、一九九五年を『統一元年となる年』と設定しているから、それに沿って細部闘争計画を樹立しよう」といって、次のような闘争計画を立てていたという。
 九〇・九一年を「革命の準備期間」と設定、労働者、農民、学生など反民自党(韓国与党)連合戦線を構築する。九二年の国会議員選挙、それに続く大統領選挙で野党圏の人間を多く当選させ、各界の民衆代表が参加する民主連合政府を樹立し、政府の弱体化を図る。
 そして九四年には、革命雰囲気を利用してソウル、京畿、仁川地域(第一地域)を中心として民衆蜂起を起こす。つづいて釜山、蔚山、馬山、昌原地域(第二地域)に民衆蜂起を起こすと同時に防衛産業から武器を奪取して武力革命闘争を行う。この二地域で失敗した場合、光州全地域(全羅道・第三地域)で蜂起し、政府を打倒し民族自主政権を樹立する。
 最後に北韓と連邦制統一を果たし、九五年を「統一元年」として社会主義国家を建設する(東亜日報一九九〇年・十二月二十六日)という「暴力革命」→連邦制→社会主義国家実現というプログラムをもっていたことが明らかとなった。
 わが国にもこのような「革命ごっこ」をいったりやったりしている人たちがいる。この種の人たちは日本だけではなくかなりの国にいるようだが、韓国も例外ではないといえないことはないのかも知れない。
 だが、韓国の場合、日本などと比較し、たいしたことはないと簡単に片付けることができない固有の事情がある。なぜなら金日成主席は、過去一年の総括とこれから一年の方針をのべた今年の「新年辞」のなかで、昨年の祖国統一運動は、運動史に「新たなぺージを開いた意義深い一年でありました」と総括し、その上に立って「われわれは国の分裂を半世紀以上引き延ばしてはならず、かならず数年内に祖国統一の歴史的偉業を勝ち取らなければなりません」と統一を「数年内」にとの発言をなした。これは最初のことだ。
 韓国内金日成支持派、自民統のいう一九九五年を「統一元年」にするという主張と時期はぴったり一致している。つまり、韓国の「暴力革命派」の背後には、金日成を総書記とする朝鮮労働党がついているという点で、日本などの「過激派」とは大きな違いがあることを見逃すことができない。
 これだけではない、今年一月、日本の公安調査庁が発表した『内外情勢の回顧と展望』によれば、朝鮮総連内の朝鮮労働党党員組織の別名非合法組織である「学習組」は「『一九九五年までに祖国統一を達成する。ここ二〜三年が極めて重要』とした上で、全員に、(1)来月韓国人を抱き込んで革命家、工作員に仕立て上げ、韓国内で活動させること。(2)林秀ク(平成元年六月秘密訪朝、懲役五年判決済み)のような人物を多数育て上げること。(3)全国民族民主運動連合(全民連)など反政府組織の活動家や反政府勢力に影響力を有する人物を日本に呼び寄せて抱き込むこと、など指示して、年初から、その活動に取り組ませた」(三三〜三四頁)と書いている。
 金日成も、それを支持する韓国内の金日成派(約一万人と推定されている)も、日本の公安調査庁も、金日成政権は、一九九五年に統一をめざしていると公に認めている。特に、韓国内の金日成派は、暴力革命でそれを実現するといっている。
 
 
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