危機の背後に好機も
◆日本も一括解決を目指すべきだ
昨年六月以来、日朝関係は手詰まり状態にある。日本人妻の故郷訪問が実現したのに、日朝交渉を再開しなかったことのツケが回ってきたようだ。その後、テポドンが打ち上げられ、日朝双方は感情的に対立している。今回の危機が回避されるまで、日本が交渉再開を提案しても、北朝鮮側は受け付けないだろう。また、戦域ミサイル防衛(TMD)の日米共同技術研究に着手し、偵察衛星を打ち上げてみても、それが有効な対抗手段になるとは思えない。日本としては、当面、米国の外交的努力の成功を期待し、それに便乗するしかないだろう。次の外交的な機会を探りつつ、朝鮮有事や日本有事に備えて国内体制を具体的に整備することが肝要である。
しかし、危機の背後に意外な好機が存在するかもしれない。より大きな一括合意が成立し、米朝関係が大幅に改善されれば、それが日朝交渉の再開を促すからである。今となっては、米朝会談、南北対話、四者会談そして日朝国交交渉を有機的に組み合わせて、北朝鮮を国際社会のネットワークの中に参入させるしかないのである。その過程において、日本も大胆に日朝間の懸案問題の解決を目指すべきである。一方で国交正常化に応じて、大規模な経済協力を提供しつつ、他方で拉致疑惑問題からミサイル規制まで、北朝鮮側から大きな、譲歩を獲得しなければならない。要するに、日朝両国もまた一括合意を必要としているのである。
冒頭で指摘したように、新指導体制の発足とテポドン打ち上げを通じて、金正日指導部は新しい軍事・外交ゲームをスタートさせた。しかし、それは「余裕の産物」ではなく、「焦りの産物」である。筆者は北朝鮮の「早期崩壊」を信じる者ではないが、今後の数年が「ポイント・オブ・ノーリターン」(引き返し不能点)になることは否定しない。このような軍事・外交ゲームが繰り返され、北朝鮮が国力を消耗していけば、その前途に待ち構えているのは、破れかぶれの「対南侵攻」や突然の「内部崩壊」である。いずれの場合にも、朝鮮半島とその周辺に耐え難いほどの被害が及ぶだろう。憎悪や不快感から大局を見失って、国策を誤ってはならない。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
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