日本財団 図書館


交渉の基盤は十分にある
◆瀬戸際政策 V.S. 拡大関与政策
 北朝鮮の瀬戸際政策にもかかわらず、米が大量殺傷兵器を開発するテロリスト国家と関係を正常化することはない。従って、当面期待できるのは、米朝国交正常化ではなく、ジュネーブ合意の再確認(誠実な履行)、国際機関(UNDP)による経済協力、経済制裁の緩和、人道援助などである。しかし、米朝国交正常化の展望、例えば国交正常化交渉の開始が約束されれば、北朝鮮は間違いなく査察を受け入れるだろう。従って、核開発疑惑の解消と並行して実質的な国交正常化交渉を開始し、弾道ミサイルや生化学兵器の(開発、配備、輸出)規制、テロリズム、その他の問題を引き継ぐことは十分に可能である。後述するように、韓国政府はそのような一括解決方式を希望している。
 九三、九四年の核査察危機との最も大きな違いは、韓国政府が宥和的と思えるほど柔軟な態度をとり続けていることである。現在、韓国政府の最大の課題は積極的な外資導入による経済危機の克服であるが、朝鮮半島で軍事的な緊張が高まれば、それが不可能になる。しかし、その点を省いてみても、金泳三政権が韓国抜きの米朝会談に強く反対したのとは異なり、金大中大統領は米朝交渉による危機回避を希望し、ペリー調整官に対して米朝国交正常化を含む一括解決を促した。金大中政権は、明らかに、経済支援を含む大胆な「拡大関与」政策によって、北朝鮮の瀬戸際政策を包容しようとしているのである。これは韓国の政策の画期的な変化であるといってよい。
 このような観点から見れば、五月から六月にかけて危機が深刻化する可能性もあるが、それ以前に妥協のプロセスが動きだす可能性も少なくない。事実、昨年四月当時と同じく南北肥料会談が開催されるだけで、事態は大きく変化するだろう。そもそも、核開発の凍結が解除されない限り、当事者であり、同盟国である韓国の意思を無視して、米政府も強硬政策を貫徹できるだろうか。それは米韓同盟を大きな混乱に陥れるだけである。また、九三、九四年当時には米朝間に交渉の土台が存在しなかったが、今回はそうでない。双方ともジュネーブ合意を再確認して、そこから再出発することができるのである。
 従って、今後の事態の推移は多分に、韓国政府の意思を尊重して、米国が北朝鮮との一括交渉に応じることができるかどうかにかかっている。繰り返しになるが、「ムチ」によって牽制しつつも、二月中に提出されるペリー報告がそれを許容するかどうかが注目されるところである。ただし、そうなった場合でも、危機は回避されるが、複雑かつ困難な外交ゲームが待ち構えていることに変わりはない。その途中では、ある程度の軍事的な緊張もあり得る。また、拡大関与政策が不徹底であれば、その結果も中途半端に終わらざるを得ないだろう。
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION