本当に制裁できるのか
◆寧辺の核施設が「人質」に
昨年一〇月、共和党優位の米議会は、三月以降の朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)関連予算、三五〇〇万ドルの執行に幾つもの条件を付けた。例えば、最初の一五〇〇万ドルを執行するためには、その三〇日前までに、クリントン大統領が南北対話の前進、北朝鮮による「枠組み合意」の履行などについて確認しなければならない。また、六月以後の二〇〇〇万ドルを執行するためには、同じくその三〇日前までに「疑惑の地下建設に関する懸念」の解消だけでなく、北朝鮮の「弾道ミサイルの脅威」が、その輸出問題を含めて、減少したことを確認しなければならない。
しかし、予算が執行されなければ、KEDO関連業務の遂行に支障が生じるだけでなく、「枠組み」に規定された北朝鮮への重油の提供も不可能になる。そうなれば、北朝鮮側は米国がジュネーブ合意に違反していると非難して、寧辺で凍結中の核活動を再開すると声明するだろう。使用済み核燃料の封印が解かれれば、数ヵ月内にプルトニウムの抽出が可能になる。それに対抗して、米国がこれらの問題を国連安保理事会に上程すれば、九三、九四年の核危機が再現される。北朝鮮は再び核拡散防止条約(NPT)や国際原子力機関(IAEA)からの脱退を宣言して、直ちに臨戦体制に入るだろう。要するに、寧辺の核施設が「人質」になっているのである。
しかし、北朝鮮の場合、イラクのクウェート侵攻のような「前科」があるわけではないので、寧辺での核活動が再開されない限り、金昌里に「疑惑」が存在するからといって、直ちに外科手術的な軍事制裁を実行することは不可能である。中国やロシアは反対し、韓国や日本の協力も得られないだろう。九四年の危機当時に検討されたのも、国連決議に基づく経済制裁に過ぎない。もちろん、周辺諸国が北朝鮮との経済交流を遮断するだけでも、経済的な難局にある北朝鮮には大きな打撃になるだろう。しかし、そのような決議案が上程されれば、北朝鮮は上述のような措置をとるに違いない。国連決議に基づかない実質的な経済制裁も不可能ではないが、韓国の反対や日本の国連中心主義がネックになっているだろう。
他方、米英軍のイラク攻撃に驚いて、北朝鮮が地下施設の査察を簡単に受け入れると考えるのは早計に過ぎる。イラク攻撃が巡航ミサイルを含む航空打撃に終始したのを見て、北朝鮮指導部はむしろ米軍の作戦行動の「限界」を感じたのではないか。事実、今日、先進民主主義国家は人的犠牲の多い地上戦を戦えなくなっている。また、既に指摘したように、軍事制裁の覚悟なしには、経済制裁に踏み切ることも不可能である。
北朝鮮としては、航空攻撃に対しても断固として地上戦を戦い抜くことを宣言しつつ、戦火が朝鮮半島の外にまで拡大することを強調するだろう。もちろん、航空攻撃を被った場合に、北朝鮮が本当に地上戦に突入するかどうかは疑問であるが、それでも、ミサイルや特殊部隊による韓国の原子炉に対する報復攻撃などを覚悟しなければならないだろう。しかし、そうなれば、米韓側も反撃せざるを得ない。
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