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1999年2月16日 『世界週報』
北朝鮮問題を発火させないための現実的な提言
危機回避と一括解決は可能である
小此木政夫
金正日のゲーム・プラン
◆テポドンで「対米交渉能力」を獲得
 九月九日の建国五〇周年の国慶節を前に、金正日指導部は昨年夏、八年ぶりに全国的な規模で代議員選挙を実施して、四年五カ月ぶりに最高人民会議を開催した。最高人民会議の最大の意義は、北朝鮮が金日成死後の過渡期(「苦難の行軍」)を終えて、「社会主義強盛大国の建設」に向けて再出発したことにある。また、テポドン改良型ミサイルで人工衛星の打ち上げを試みることによって、金正日指導部は弾道ミサイルの開発能力を誇示し、それを核兵器の開発能力と結合させることに成功した。
 新指導体制の発足とテポドン打ち上げによって、より大きな対米交渉能力を獲得することこそが、金正日の新しいゲーム・プランの出発点だったのである。
 様々な外部の憶測にもかかわらず、北朝鮮にとって、核兵器や弾道ミサイルを政権存続のための最終的な担保として開発することと、その過程で、それらを外交手段として利用することの間に大きな矛盾は存在しない。むしろ、現在のところ、二つの目標を並行的に追求していると判断するべきだろう。いずれの観点からも、それらを簡単に放棄するとは考えられない。
 しかし、金昌里(寧辺の西北四〇キロ)の地下施設で原子炉と再処理工場を稼働させるためには四〜五年かかるのだから、当面の目標は「地下核施設」疑惑を最大限に利用して、ある種の「瀬戸際政策」(「弱者の恐喝」)を通じて、より大きな米朝一括合意を獲得することにあるとみてよい。
 北朝鮮がそれに執着するのは、対米関係の打開に「過剰な期待」(幻想)を抱いているからである。それさえ達成できれば、日本は米国に追従して北朝鮮との関係を正常化するに違いないし、それに伴って多額の「賠償」も獲得できるし、韓国は大混乱に陥ると考えているのだろう。言い換えれば、それこそが局面を一転させる「金正日のゲーム・プラン」なのである。
 金正日指導部が依然として「最終的な勝利」に固執し、自分たちの流儀で局面の大きな転換を試みているのだから、米朝および日朝関係が正常化され、朝鮮半島に平和体制が確立されるまで、北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルの開発を断念することはないだろう。
 また、一九九四年一〇月のジュネーブ合意(「枠組み合意」)の内容からみて、北朝鮮が現段階で約束しているのは、核開発の「凍結」に過ぎない。北朝鮮にとって、「凍結」とは、「枠組み」に規定された長期的な相互プロセスの主要部分が終了するまでの間、その合意が破綻した場合に備えて、直ちに核開発を再開できる状態を維持することである。そうしない限り、二〇〇三年を目標とする「枠糾み」の履行が保障されないと考えているのである。
 事実、軽水炉建設の大幅な遅延、円滑でない重油提供、不満足な経済制裁の緩和など、北朝鮮側は既に昨年春から「枠組み」の履行状況について強い不満を表明していた。
 
 
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