1998年9月29日 『世界週報』
危機脱出の展望開けず“非常時体制”を制度化
ミサイル発射も体制固めのシナリオの一部
小此木政夫
◆労働党組織に動揺・混乱も
北朝鮮では九七年四月の人民軍創建六五周年に合わせて、軍の大幅人事が行われた。それに先だって金正日氏はまず二月の段階で自らの軍側近を昇進させ、四月には元帥、次帥、大将、上将、中将、少将ら一二三人の大規模な昇進人事を行った。この段階で金正日氏は軍の体制を固めたといえるだろう。
党の体制は昨年一〇月に、金正日氏が朝鮮労働党総書記に就任した際に固まるはずだった。しかし、当時は明らかでなかったが、そのころまでに労働党の青年組織である社会主義青年同盟内の不正腐敗が摘発されていた。しかも、そこに韓国企業の資金が絡んでいたようである。そうだとすれば、北朝鮮にとってそれは単なる不正腐敗ではなく、国家に対する裏切り、すなわちスパイ罪ないし反逆罪になる。そのため、金正日氏の総書記就任にもかかわらず、労働党の体制づくりが大幅に遅れ、社会主義青年同盟、職業同盟、女性同盟など党の周辺組織の体制が整ったのは今年に入ってからである。
こうした党組織の動揺は現在もなお、尾を引いている可能性がある。通常、最高人民会議が開かれる前には、必ず党中央委員会総会が開かれ、人事や政策の基本が決定されていたが、今回は党中央委総会が開かれたという発表はなく、不自然な印象が拭いきれない。それが開催されたにせよ、されなかったにせよ、新体制の下で軍の比重がさらに増大し、朝鮮労働党の地位は大きく低下したのではないかと思われる。
このように金正日氏は、あらゆる組織から“不純分子”を摘発、排除しながら、体制固めを図り、七月に最高人民会議代議員選挙を終え、今回、第一回会議を開催した。新代議員からは金正宇、金達玄らの有力な経済官僚が脱落している。その理由も対南関係だと見られている。
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