◆軍事・外交を結合させた体制固めシナリオ
このような状況の中で、北朝鮮指導部は残された唯一の手段、すなわち軍事力を最大限に誇示し、それを外交に結合しようとしている。また、それを国内の体制固めにも利用しようとしている。言い換えれば、北朝鮮指導部にとって、軍事力こそがほとんど唯一の「生き残り」手段であるだけでなく、経済再建のためには、それを利用して対外関係を打開するほかないのである。そこには一貫したシナリオがあったようだ。
その第一幕は、今年六月の対日政策の変化・強硬化である。日本人拉致疑惑と関連して日本側が行方不明者の消息を問い合わせたのに対して、北朝鮮当局はその存在を全面的に否定し、さらに日本人妻の里帰りも中止した。北朝鮮としてはおそらく、日本人妻を里帰りさせ、北朝鮮に在住する寺越さんや赤軍派メンバーを帰国させれば、日朝交渉は再開されると踏んでいたのではないか。ところが、横田めぐみさんらの拉致疑惑がクローズアップされて、日本側の設定するハードルが高くなったために、それを越えられず、交渉を打ち切った。
第二幕は八月の後半からニューヨークで再開された米朝交渉である。核兵器開発の凍結を基礎とするジュネーブ合意の枠組みが曲がり角にきているため、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の支援、連絡事務所の相互開設や朝鮮半島四者会談の再開を含めた包括的な交渉が行われている。
第三幕は八月三日の弾道、ミサイル(あるいは人工衛星)の打ち上げである。これによって北朝鮮の軍事力を最大限に誇示した。第四幕が最高人民会議の開催と新体制の発足であり、そしてフィナーレが九月九日の建国五〇周年式典である。
北朝鮮は外交・軍事・国内体制固めを一つのシナリオで演出しようとしたようだ。こうして見ると今回のミサイルの打ち上げは、一九五七年のソ連のスプートニク打ち上げを思い出させる。ソ連の人工衛星も初歩的段階だったが、スプートニク・ショックの政治的効果は大きかった。北朝鮮指導部は小型のスプートニク・ショックを再現しようとしたのではないか。実際に衛星が軌道に乗ったのかどうかは疑わしいが、北朝鮮は弾道ミサイルを人工衛星の軌道にめがけて打ち上げたのではないかと思われる。
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