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◆国防委員会が国家の司令塔に
 金日成主席の死後、国家運営がもし順調であったなら、最高人民会議の前に党中央委総会が開かれ、金正日総書記が国家主席に就任したはずである。しかし、実際には憲法の改正によって国家主席ポストを廃止し、国防委員会を中心とする指導体制を組んだ。これは金正日氏と少数の側近によるこれまでの“非正常な”支配体制を制度化したことになる。
 金正日新体制の最大の特徴は軍事だけでなく、経済、外交など、あらゆる分野の権限を国防委員会に集中させ、金正日氏が委員長に就任したことである。経済テクノ・クラートで首相候補の一人でもあった延亨黙氏が国防委員会のメンバーに加わっていることもそれを示している。北朝鮮の指導体制の軍事化がさらに一歩進展したと言わざるを得ない。
 金正日氏が国家主席に就任せず、主席ポストが廃止され、故金日成主席が“永世”主席となった理由は、北朝鮮国内では「国民こぞっての推戴にもかかわらず、金正日総書記は謙虚にも、まだ金日成主席ほどの功績を上げていないとの理由で辞退した」と説明されるだろう。金正日氏は“孝行息子”を演出することによって引き続き故金日成主席の権威を利用しようとしているのである。
 しかし、それはあくまでも形式的なものにすぎない。実態的には、経済危機がさらに深刻化する中で、対外関係も進展がみられないため、軍事色の濃厚な過渡期の危機管理体制を継続せざるを得なかったということだろう。要するに国防委員会への権力集中は、北朝鮮の直面する内外の難局を反映するものである。
 金正日氏は形式にとらわれず、実質的な最高権力者になった。本来、国家主席が果たすべき役割、それも形式的なもの、例えば、特赦権の行使、条約の批准・廃棄、外交代表の任免を常任委員会の職責とし、外国大使の信任状の受理も最高人民会議常任委員長の金永南氏が行うことになっている。金永南氏は国家主席ではないが、本来は主席が持つ国家元首としての機能の多くを代行することになった。
 修正憲法の規定では、国防委員会には新しい権限はほとんどつけ加えられていない。しかし、党の役割の低下に伴って、実態的には国防委員会が、これまで労働党政治局の果たしてきた役割の多くを担うことになったように見える。すべての権限を国防委員会が握り、国政全般の司令塔の役割を果たし、内閣がそれを実行するという仕組みができたのだろう。これまで首相代理を務めてきた洪成南首相をはじめ官僚たちは、必ずしも改革派とはいえないものの、有能な実務家をそろえた布陣といえるだろう。
 
 
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