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◆北朝鮮の活路は韓国との交流拡大
 以上見てきたように、金正日体制が現在直面している危機は食糧問題から派生している。来春までにそれを解消できなければ、そのときには、食糧危機が政治体制の不安定化を招来するかもしれない。しかし、それを独力で解消できない以上、韓国との経済交流に活路を見いだすか、再び中国への依存に復帰するか、北朝鮮の指導部には二つの選択肢しか残されていない。いずれの道も、現行の政策の大きな変更を要求している。また、いずれを選択するにしろ、新しい指導部の正式の発足、すなわち金正日書記の労働党総書記への就任がその前提になるだろう。
 しかし、「革命的経済戦略」に基づいて軽工業、農業、貿易を最優先すること、および核開発を凍結し、対米関係を改善することが、いずれも金日成主席の「遺訓」であることを思えば、北朝鮮の対中依存への復帰には限界があるように思われる。われわれの側の政策としては、北朝鮮に対する経済協力や関係改善を開放・改革の進展とリンケージさせるとともに、できる限り南北経済交流を先行させることが望ましい。また、それが中国を含む多国間の平和保障体制の構築に寄与するように思われる。北朝鮮の食糧危機は、そのための好機であるかもしれない。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
 
 
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