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◆米朝接近が中朝の軋轢を招く危険
 食糧問題を解決するためのいま一つの方法は、相変わらずの場当たりではあるが、中国の援助に期待することである。そもそも、北朝鮮の食糧事情が急速に悪化した大きな理由の一つは、中国からの穀物輸入が激減しているからである。一九九三年の冷害の年には、中国から九四万トンの穀物(主としてトウモロコシ)が輸入された。その前年は六五万トンである。しかし、昨年は二〇万トン程度にまで減少し、今年に入って、それは停止状態にある。日韓両国からの緊急のコメ援助にもかかわらず、中国はほとんど何もしていないのである。
 もちろん、中国にも言い分があり、中国自身の生産低迷や食肉需要の増大に伴う飼料用トウモロコシの価格高騰などがその理由とされている。また今年は、北朝鮮だけでなく、中国各地で相当の水害が発生し、穀物の大幅な減収が懸念されている。しかし、北朝鮮の食糧事情が危機的な状態に陥るのであれば、隣国として、また最大の友好国として、財政的な支援を提供することも不可能ではない。これまでの両国関係からみれば、むしろそれが自然である。
 しかし、昨年一〇月のジュネーブでの米朝合意と前後して、中朝関係の冷却化が目立っている。その象徴的な出来事が、北朝鮮による「新平和保障体制」の主張と朝鮮軍事休戦委員会からの中国人民志願軍代表団の撤収である。
 北朝鮮の主張する「新平和保障体制」とは、朝鮮休戦条約を米朝平和協定に置き換えることによって、これまで軍事休戦委員会や中立国監視委員会が果たしていた休戦機能をアメリカに代行させること、すなわち「アメリカによる平和保障体制」(米朝の1+1ないし、南北、米国による2+1)にほかならない。それを実現するために、北朝鮮は中国に軍事休戦委員会からの撤収を要求したのである。
 しかし、それは休戦条約を通じて、中国が朝鮮半島に維持してきた安全保障上の影響力が排除され、中国に代わって、アメリカの影響力が鴨緑江まで到達することを意味している。李登輝台湾総統の訪米、米越関係正常化、南沙諸島の紛争などとともに、中国にとっては「新平和保障体制」はアメリカによる「中国封じ込め」の一部にほかならないのである。こともあろうに、北朝鮮がそれに率先して協力しているのである。北朝鮮が中国に本格的な食糧援助を要請するならば、金正日書記が中国を訪問し、米朝平和協定の要求にブレーキをかけられなければならないだろう。
 他方、中国にとって、北朝鮮が南北経済交流に踏み切ることは決して不都合ではない。段階的にではあれ、それは北朝鮮が中国型の改革・開放を模倣することであり、南北間の経済交流が本格化すれば、新しい多国間の平和保障体制が模索され得るからである。恐らく、それは南北当事者合意、米中両国による安全保障、日本とロシアの承認(2+2+2)から構成される重層的な平和保障体制になるだろう。しかし、もし北朝鮮が米朝平和協定に固執し、「アメリカによる平和保障体制」を要求し続ければ、それが中国の新しい対韓接近を招来するかもしれない。
 
 
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