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◆「核カード」を握りながら体制維持と権力継承を狙う
 それでは、北朝鮮の目的はこれらの要求の達成だけだろうか。それらの要求の達成はそれ自体が大きな外交的成果であることは言うまでもないが、それにはいくつかの隠された目的が付随しているとみるべきだろう。言い換えれば、チームスピリットが中止されるからといって、北朝鮮の体制維持が保障されるわけではないのである。
 まず第一に、北朝鮮にしてみれば、IAEAの執拗な追及に歯止めを掛ける必要性を感じているに違いない。特別査察を受け入れれば、北朝鮮の核兵器開発の進捗状況が白日の下にさらされてしまうだろう。そうなれば、核兵器開発を中止せざるを得なくなるだけでなく、今後、核兵器開発を外交的な手段として利用することも不可能になってしまう。言い換えれば、それなりの代価を得ることのないまま、北朝鮮は「最後のカード」を喪失してしまうのである。
 第二に、最悪のシナリオを突きつけることによって、韓国を政治的に恫喝し、対米直接交渉の窓口を開きたいとの意欲があるだろう。長い間、対米直接交渉は北朝鮮外交の最重要目標であった。それが実現すれば、南北経済協力も日朝国交交渉も進展すると判断しているのである。また、すでに指摘したように、それこそが困難に直面した北朝鮮経済の再建を保障するものである。すでに指摘したように、経済再建は核兵器開発と並ぶ「二重外交」のいま一つの目標なのである。
 第三に、国際的な孤立化と深刻な経済困難に直面した北朝鮮は、その責任を外部に転嫁し、国内的な団結を強化する必要性に迫られている。また、それは金正日書記の権力継承と関係している。事実、準戦時体制を宣布し、全軍を指揮することによって、金正日最高司令官は軍隊にその権威を浸透させることに成功した。この危険な賭けに勝利すれば、金正日の権威は揺るぎないものに成長するとの読みがあるのだろう。国防委員会委員長に就任し、軍隊の全権を掌握した以上、実質的な権力継承はすでに完了したとみてよい。
 
 
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