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◆やむなく「現状」承認
 もちろん、北朝鮮のこれらの新しい方針は、いずれも事前の態度表明の域を出るものではない。とりわけ後者については、核燃料再処理工場を含む原子力施設に対する査察の「全面的な実施」に伴う問題が残されている。北朝鮮としては、この問題をめぐって、改めて対米直接交渉を試みたいところである。したがって、在韓米軍の核撤去などの前提条件が取り下げられても、すべての問題が解決されたわけではないのである。
 しかし、突然の政策変更は、昨年九月に訪朝した金丸・田辺代表団への対日「早期国交樹立」提案で経験済みであり、それ自体を異とするに当たらない。われわれはすでに「北朝鮮の公式見解よりは、パワーポリティクスの論理を重視して、今後の事態を観察するべきである」(本誌・昨年一〇月二三日号)との貴重な教訓を得ていたのである。今回の政策変更でも部分的にしろ、北朝鮮はやむを得ず「国際政治の現状承認」に踏み切ったとみてよいだろう。
 事実、国連同時加盟についていえば、今年こそは単独ででも加盟を申請するという韓国の決意が固く、国際的にもそれを阻止することが不可能な情勢に追い込まれていた。また、IAEAとの保障措置協定についていえば、それなしには日朝交渉が進展せず、米朝関係の改善もあり得ないことが明白になっていた。これ以上前提条件に固執すれば、IAEA理事会で特別査察を要求する北朝鮮非難決議さえ採択されかねない。
 他方、仮に北朝鮮が核燃料再処理工場を含む原子力施設の全面的な査察を受け入れれば、テロリズムや人道問題が事実上棚上げされ、日朝交渉が急速に進展する可能性もあり得なくないのである。そうなれば、米朝関係も大幅に改善され、中韓関係がそれに続くことになる。日朝交渉の垣根が高められてきた結果、今や日朝交渉の障害がほとんどそのまま、米朝関係改善の障害になっているからである。
 
 
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