1990年10月23日 『世界週報』
「パワー・ポリティクス」を重視し始めた北朝鮮
小此木政夫
◆やむを得ず「早期国交樹立」に動く
北朝鮮が「早期国交樹立」を提案することは、交渉当事者を含めて、日本側の予想を越えていた。これまで、北朝鮮政府が一貫して「二つの朝鮮」反対と「クロス承認」反対を不可分のものとして強調してきたので、その論理に立つかぎり、「早期国交樹立」提案は予想し難かったのである。金丸・田辺代表団も、第18富士山丸の二人の船員の早期釈放に合意し、日朝関係改善のための政府間交渉に糸口をつけるために、平壌を訪問したのである。
しかし、北朝鮮がそこまで踏み込んできた理由を説明すること自体は、それほど難しいことではない。(1)南北対話が重要な段階に到達したにもかかわらず、(2)韓ソ国交樹立の動きにみられるように、北朝鮮を取り巻く国際情勢が急速に悪化し、(3)経済的な困難がますます深刻化しているので、西側諸国、とりわけ日本に突破口を求めたのであろう。米国とは異なり、日本との国交正常化には大型の「賠償」が付随している。三党会談の席上で、金容淳書記自身がそのことを是認した通りである。
そうであるとすれば、われわれの「論理の展開」が間違っていたわけではない。北朝鮮側の事情がわれわれの想像する以上に深刻であり、やむを得ず「早期国交樹立」という目標が掲げられた、というだけである。われわれは、これから、北朝鮮の公式見解よりは、「パワー・ポリティクス」の論理を重視して、今後の事態を観察するべきであるとの貴重な教訓を得た。
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