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◆四者会談と平和体制
 ヨーロッパ正面と並んで、北東アジアは長い間冷戦の主戦場であった。それだけでなく、ヨーロッパで冷戦が終結に向かった後も、北東アジアは「冷戦の化石」と称されることが多かった。しかし、一九九〇年代に入る頃から、ソ連・東欧諸国の韓国承認、国際連合への南北同時加盟、中韓国交樹立など、この地域でもようやく冷戦構造の崩壊が表面化した。長らく中断しているが、そのような情勢のなかで、一九九〇年には日朝国交正常化交渉も開始されたのである。
 しかし、これらの成果は、東西両ドイツの相互承認にみられるように、ヨーロッパでは一九七〇年代前半のデタント期に達成されていたものである。したがって、北東アジアにおける脱冷戦現象は、共存期間の長かったヨーロッパよりも「遅れた地点」から出発したのである。また、その意味では、冷戦終結後の新しい安全保障システムの形成も遅延している。北朝鮮のNPT脱退をめぐる緊張の後、金日成・カーター会談を背景にして、ジュネーブで最初の外交的合意が成立したのは、一九九四年一〇月のことであり、それも北朝鮮に核開発を凍結させるための米朝間の合意にすぎなかった。
 現在、それを土台にして、米朝両国に韓国と中国を加えた新しい多国間の安保対話フォーラム(四者会談)が誕生しようとしている。もちろん、この安保対話フォーラムはCSCEやARFのように長期にわたって準備されたものでも、それ自身の確たる基盤をもつものでもない。それどころか、当初、それは南北対話を拒絶しつつ、朝鮮休戦機構を意図的に解体し、それを米朝平和協定に置き換えようとする北朝鮮の執拗な努力に対抗するために提案されたものにほかならなかった。いいかえれば、核開発凍結後の新しい朝鮮半島危機に対応するために、米韓側が必要に迫られて考案した即興的装置だったのである。
 したがって、四者会談では、あらゆる問題を討議することが可能である。事実、暫定的な平和維持だけでなく、新しい南北平和体制、兵力引き離しを含む軍事的な信頼醸成措置(MCBM)、在韓米軍撤退、国連軍司令部解体、ミサイル・生物化学兵器規制、武器移転規制など、これまで議論されることのなかった重要問題が議題として想定されている。しかし、いずれの問題も朝鮮半島の安全にとって極めて重要であり、容易に具体的な結論を出せる問題ではない。したがって、予備会談が開催されても、議題の設定をめぐって会談が紛糾する可能性も否定できない。中国の参加もあって、とりわけ在韓米軍撤退問題の取り扱いが難しい。
 しかし、それにもかかわらず、四者会談は南北両当事者と最大の利害関係国である米中両国から構成される多国間安保対話フォーラムであり、一度開催されれば、北朝鮮といえども、その枠組の存在を無視することは困難である。かりに北朝鮮が南北対話の再開を提案しても、中国を含むその他の三カ国はこのフォーラムを解消しようとしないだろう。その意味では、アメリカの影響力の拡大を懸念して、中国が四者会談の枠組維持に大きな期待を寄せていることを忘れてはならない。すでに指摘したように、南北対話と四者会談を平行的に開催し、それぞれの機能を有機的に結合すればよいのである。
 また、四者間の安保対話が開始されれば、その波及効果も小さくない。四者会談の最大の意義は、当事者である南北朝鮮と朝鮮半島の安全保障に直接的に関与してきた米中両国が、北東アジアの冷戦終結を討議することにある。そのような安保対話が維持されれば、南北朝鮮間の緊張が大幅に緩和されるだけでなく、それと平行して、日朝関係を含む、北朝鮮と周辺諸国間の政治、経済関係の正常化も進展するからである。四者間の安保合意を基礎に、朝鮮半島に新しい平和体制が誕生する頃には、「2+2」以上に安定的な「2+2+2」(あとの「+2」は日本とロシア)が成立しているかもしれない。
 
 
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