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◆北朝鮮を崩壊させない日本の外交とは
 韓国経済は国際化された経済だから、タイやマレーシアの金融危機以上のパニックが発生する。そして朝鮮半島の問題は日本にも必ず波及してくる。相互依存のボーダレス経済体制にあっては当然だ。
 したがって、韓国経済の破綻をその場で封鎖しなくてはならない、となると、どれだけの規模の財政支援が必要なのかという話になってくる。もちろん国際的な借款ということもあるだろうが、ロシアや中国がどれだけ助けられるかとなれば疑問だし、アメリカはこれを日本の役割だとして押しつけてくるだろう。
 そうなれば、北朝鮮の体制崩壊は日本の財政破綻にもつながってくる。こうしたシナリオについては、不思議なことに誰もあまり気にしていない。しかし、一定の確率で現実の問題になり得る。戦争ということになれば、事態はもっと悲惨だ。
 金正日氏が党総書記に就任して、体制の生き残りに取り組むとしたら、四者会談を通じて、北朝鮮が生き残れるような安全保障面での仕組みを勝ち取らなくてはならない。そして日朝国交正常化を達成し、韓国との関係を安定化させるだろう。安全保障はアメリカ、経済は韓国と日本の力を借りなくてはならない、ということになる。
 自由経済貿易地帯に労働集約型の輸出産業をおこし、靴とか鞄とか繊維とかを売って外貨を稼ぐ。それが成功したら、そうした保税加工区を元山にも南浦にも増やしていく。そこで稼いだ外貨で石油や食糧を買う。
 こうした方法を金正日氏はすでにわかっていると思う。この三年間の彼のやり方をみていると、彼は明らかに経済開放をめざしている。ただ、そのためには対外関係の打開が不可欠だ。
 四者会談と日朝交渉と人道問題は、密接に結びついている。米韓両国との協調を土台に、全体のバランスを維持しながら、これらを同時並行的に解決していかなくてはいけない。暴力的な事態を回避しつつ、北朝鮮の「段階的な体制移行」を誘導していくべきだろう。
 北朝鮮に対する日本の外交は、従来から、政治家個人の活躍に負うところがあり、肩入れする人やイデオロギーに共感する政治家が表面に立った。
 しかし、こうした傾向は橋本政権になってから、北朝鮮との交渉は政府間でやるという方針に変わり、一つケジメがついてきた。その結果、今回の日本人妻の里帰り問題や日朝交渉は外務省ルートで進められており、これは正しい姿だと思う。
 しかしこれは政治家の役割が終わったということを意味するものではない。
 日本人妻、拉致疑惑の問題、こうした外交案件というものは、緊急性のある重要問題だ。国交正常化ということになれば、資金をどうするかといったことで、今度は日本国内の省庁間で政治問題化する。そういった過程で、官僚は大局を見失いがちだ。かれらは忙しいし、さまざまな批判に耐えなくてはならない。となると、どうしても当面の問題に集中しがちで、長いタイムフレームでみた場合、どういう行動をとることがもっとも望ましいかといった、長期的な国益を忘れがちになる。
 たしかに交渉という局面でみると、国益が貫徹されたようにみえた。しかし、その結果北朝鮮が崩壊して、より大きな被害が日本に及んできた、ということになってはいけない。重要な局面では、政治家の決断力や政治力が必要になってくるだろう。
 長期的な目標と短期的な目標をうまく組み合わせることが重要だ。マスコミや世論はついつい性急になりがちだけれども、政府は長期的な観点を失することなく交渉しなくてはならない。
著者プロフィール
小此木 政夫 (おこのぎ まさお)
1945年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
韓国・延世大学校留学、米国・ハワイ大学、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現在、慶應義塾大学教授。
 
 
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