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産経新聞朝刊 2003年1月9日
「拉致明白」25年後の“メス”宇出津事件 金容疑者の指示受けた在日朝鮮人
 
 四半世紀の捜査を経て取った一通の逮捕状。警視庁が北朝鮮工作員の逮捕状を取った久米裕(ゆたか)さん拉致事件(宇出津(うしつ)事件)は、一連の事件のうち捜査当局が唯一、関与した在日朝鮮人から実行行為を認める供述を得ているケース。北朝鮮からの指示を解読するための乱数表なども押収されており、北朝鮮による拉致は当初から明白だった。
 ◆久米さん連れ出し
 事件が起きたのは昭和五十二年九月十九日。在日朝鮮人が知り合いだった久米さんに密貿易のもうけ話をもちかけ、石川県の宇出津海岸に連れ出し、北朝鮮の工作員の船に乗せた。
 二人は事件前、海岸近くの旅館にチェックイン。午後十時ごろに二人で旅館を出たため、旅館の従業員が「挙動のおかしい宿泊客がいる」と警察に通報。警察官が駆け付け、久米さんを工作員に引き渡した後、一人で旅館に戻ってきた在日朝鮮人を外国人登録法違反の現行犯で逮捕した。
 在日朝鮮人の供述によると、四十八年ごろ、「金」と名乗る男から北朝鮮工作員の協力者になるよう迫られた。
 五十二年夏には、北朝鮮の幹部工作員、金世鎬(キムセホ)容疑者(七四)から「北朝鮮に五十歳前後の男を送れ」と指示され、久米さんを拉致対象に選んだ。
 宇出津海岸で工作員と合流した際、在日朝鮮人が事前に暗号で指示されたとおり、石をカチカチと鳴らして信号を送ると、物陰に潜んでいた三人の男が現れ、久米さんを連れ去ったという。
 金容疑者は、身寄りのない人をターゲットに拉致し、工作員が成り済ますつもりだったが、在日朝鮮人が逮捕されたため計画をあきらめたとみられる。
 捜査当局は、この在日朝鮮人の関係先から、平壌放送などを通じて北朝鮮から送られてくる指示暗号を解読するための乱数表などを押収。しかし、久米さんの行方が分からず、裏付けが乏しいことなどから、立件は見送られた。
                 ◇
 
 ■警察庁が認定した拉致被害者

氏名(敬称略)   失踪時期 失踪場所
地村保志(47) 53年 7月 福井県小浜市
地村(旧姓浜本)富貴恵(47) 同上 同上
蓮池薫(45) 53年 7月 新潟県柏崎市
蓮池(旧姓奥土)祐木子(46) 同上 同上
曽我ひとみ(43) 53年 8月 新潟県真野町
曽我ミヨシ 失踪当時=(46) 同上 同上
横田めぐみ 失踪当時=(13) 52年11月 新潟市
有本恵子 失踪当時=(23) 58年 7月 欧州
松木薫 失踪当時=(26) 55年 6月 同上
石岡亨 失踪当時=(22) 同上 同上
市川修一 失踪当時=(23) 53年 8月 鹿児島県吹上町
増元るみ子 失踪当時=(24) 同上 同上
田口八重子 失踪当時=(22) 53年 6月 都内
原敕晁 失踪当時=(43) 55年 6月 宮崎市
久米裕 失踪当時=(52) 52年 9月 石川県能都町

【写真説明】
北朝鮮工作員が日本人になりすましていた「西新井事件」で押収された通信機器や乱数表。久米裕さん拉致事件と同様、金世鎬容疑者の関与が疑われている
 
 
 
 
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