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産経新聞朝刊 2003年1月11日
主張 失踪者リスト 政府は真相究明に努力を
 
 このうち何人が北朝鮮に拉致されたのだろうか。北朝鮮による拉致被害者を支援している「救う会」は十日、「拉致の可能性が排除できない」失踪(しっそう)者のリストを公表し、国民に情報提供を呼びかけた。政府は、このリストの存在を重く受け止め、最大限の調査を開始してもらいたい。
 リストは、昨年九月の日朝首脳会談後、「救う会」に全国から「北朝鮮に拉致された可能性がある」という情報が寄せられた。その数は約百二十件、約百五十人にのぼり、「救う会」では昨年暮れに内閣府の支援室にリストを提出して、政府の調査を依頼した。
 「救う会」では、より多くの情報を提供してもらうには、国民に広く協力してもらう必要があると判断、この日のリスト公表となり、家族が公表を承諾した四十人については、名前、顔写真や失踪時の状況などを公表した。
 失踪者は、昭和五十年代に集中しており、二十歳代が多い。蓮池薫さん、地村保志さん夫妻のようにカップルで行方不明になっているケースもある。また、失踪当時、中学生、高校生だった例も目立つ。
 昭和五十年代といえば、北朝鮮の工作員による日本での工作活動が盛んに行われた時期である。これまでの警察当局の捜査で、朝鮮労働党直轄の工作機関「対外情報調査部」が日本国内の在日朝鮮人を協力者にして、本国の指令のもとに、日本人の拉致事件を繰り返していた時期とも一致する。
 この日公表された失踪者が、北朝鮮に拉致された疑いが濃いとは直ちに言い切れない。しかし、あらゆる可能性を求めて、詳細で緻密(ちみつ)な調査が必要なことは、いうまでもない。
 警察庁はこれまで、北朝鮮による拉致日本人は、十件十五人と認定している。警察当局は、認定事件の再度の洗い直しの捜査はもちろんのこと、今回公表された失踪者についても、被害者家族の身になって、入念な捜査をすべきだろう。
 また、政府は日朝首脳会談で金正日総書記から「率直におわびしたい」との言質を得た以上、それを盾に繰り返し、強く解明を求めていくべきだ。北はつねに分断工作を仕組んでくる。対抗するには警察、自治体、国民の結束がなにより肝要である。
 
 
 
 
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