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産経新聞朝刊 2002年12月19日
主張 拉致被害者再会 北に戻さぬ方針は当然だ
 
 拉致事件の被害者五人が新潟市内のホテルに集まり、今後の対応などを話し合っている。北朝鮮から帰国して以来、約二カ月ぶりの再会である。日本で子供たちと一緒に暮らす意思は固いようだ。
 北朝鮮は「日本は五人をいったん北朝鮮に戻すという約束を破った」として、子供たちの帰国を拒んでいる。日本の外務省内にも一時、「五人をいったん北朝鮮に戻すべきだ」という主張があった。確かに、五人の帰国にあたり、日朝の外務省間で、そのような口頭の了解があったのだろう。しかし、それは折衝が継続している段階での非公式な約束であり、日本が拘束される必要はない。
 繰り返すまでもないが、拉致事件は北朝鮮による未曾有の国家犯罪である。先の臨時国会で成立した拉致被害者支援法も、そう規定している。一般論としても、犯罪者のもとに被害者を戻すことなど、あってはならない。
 五人は帰国後、それまで強いられてきた「朝鮮公民」という意識から脱し、子供も含めて「日本国民」であるという強い意識を取り戻しつつある。日本政府も十月末、「五人を北朝鮮に戻さない」方針を決めており、この政府方針を貫き通すべきである。
 これを支援する日本国民の世論も、いつになく盛り上がっている。一方、日朝交渉が膠着(こうちゃく)状態になっていることもあり、「五人を一度、北朝鮮に戻すべきだ」という声が、一部の政治家や評論家の間で出始めている。だが、それは結果的に、日本の世論の分断を図ろうとする北朝鮮を利することにならないか。多少、時間はかかっても、拉致事件では一歩も譲らない外交姿勢が必要である。そのため、日朝国交正常化が遅れてもかまわない。
 一部マスコミに、「一切の妥協を排する態度はとるべきでない」「感情的な世論にあおられると、外交は失敗する」などと北朝鮮との対話を重視すべきだという論調がある。もっともらしい外交論だが、これまでの外交は国交正常化を急ぐあまり、被害者家族の声を無視し、コメ支援をしてまで北朝鮮に妥協的な態度をとろうとしてきたから失敗したのではなかったのか。
 これからも、対「北」外交には世論の支持が欠かせない。拉致事件解決に向け、一層の高まりを期待したい。
 
 
 
 
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