産経新聞朝刊 2002年12月12日
主張 北ミサイル臨検 危険な実態を再確認せよ
北朝鮮を出港した不審船がアラビア半島南端のイエメン沖でスペイン海軍と米軍による船舶検査(臨検)を受け、積み荷からスカッドミサイル十五基とミサイル燃料など多数が押収された。北朝鮮は過去十年以上、中東・アフリカ諸国に数百基以上のミサイルを輸出してきたとされているが、現場を押さえられたのはこれが初めてだ。北朝鮮の危険な実態がまたひとつ暴露された。
押収されたミサイルの今回の輸出先はイエメンだったという。イエメンには数年前にも北朝鮮からスカッドミサイルが輸出された前歴がある。当時、イエメン政府は「正当な武器取引」と主張したが、同国は武器の入手が容易で、テロリストたちが武器を調達しているとの懸念もある所だ。北朝鮮のミサイル輸出が国際社会の不安要因になっていることは否定できない。
北朝鮮のミサイル輸出はまた、九月十七日の「日朝平壌宣言」にも違反している。同宣言4項には「双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図る」とある。今回の不審船が北朝鮮を出港したのは約三週間前というから、日朝平壌宣言が調印されたあとも、北朝鮮は平然と約束を無視していたことになる。日本政府は抗議すべきだ。
十月初めに北朝鮮によるウラン濃縮計画が明らかになった後、日米韓首脳はそろって、それが米朝枠組み合意、核拡散防止条約(NPT)、国際原子力機関(IAEA)保障措置協定、南北非核化共同宣言のすべてに違反すると非難した。それに加えて、今回の約束違反である。
国際間の約束を平然と破り、拉致などの国家犯罪を行い、ウソを重ねてきたこのような国と果たして正常な話し合いなどできるのだろうか。韓国政府の北に対する「太陽政策」に危惧(きぐ)を覚えるゆえんでもある。
先日発表された小泉純一郎首相の私的懇談会の提言「二十一世紀日本外交の基本戦略」は、「拉致、核兵器・ミサイル開発、工作船、覚醒(かくせい)剤密輸などの問題の解決なしに日朝関係の正常化は不可能」と指摘した。その通りで、正常化交渉は、北朝鮮の危険性を踏まえ、拉致事件などの十分な解決なしに急いではならない。
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