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産経新聞朝刊 2002年10月31日
主張 日朝交渉 原則曲げない姿勢を貫け
 
 二日間にわたる日朝国交正常化交渉は、拉致事件と核開発問題を最優先課題とする日本と、経済協力を優先させようとする北朝鮮との間で、議論が平行線をたどり、物別れに終わった。これからも、日本は基本姿勢を変えず、北朝鮮と交渉すべきである。
 拉致事件については、日本側が帰国した被害者五人の北朝鮮に残っている家族の帰国、「死亡」とされた八人の死因などに関する疑問点への回答を求めたのに対し、北朝鮮側はほとんど具体的な回答を示さなかった。これは誠意ある対応とはいえない。
 北朝鮮側は、日本政府が帰国した五人を北朝鮮に戻さない方針を決めたことについて、「約束違反だ」と繰り返し批判したが、筋違いの批判である。当初、日本の外務省との間で、「五人を一−二週間で北朝鮮に戻す」という非公式な約束があったとされるが、もともと拉致は北朝鮮の国家的犯罪であり、どんな理由があろうと、加害国の北朝鮮が被害者とその家族全員を日本に帰国させるべきなのである。
 核開発問題では、日本が核開発の即時中止と、日本に照準を定めたノドンミサイルの廃棄を求めたのに対し、北朝鮮は「米国の敵視政策が根本問題」と論理をすり替え、対話さえ拒んだ。これも論外である。北朝鮮は日朝平壌宣言、核拡散防止条約(NPT)などに明白に違反しており、これこそ約束違反である。
 それにもかかわらず、北朝鮮は日本からの経済協力を重点的に協議するよう強い調子で求めてきた。こんな手前勝手な要求は国際社会では通用せず、到底、認められるものではない。
 十二回目にあたる今回の日朝正常化交渉で、日本側は今までにない毅然とした姿勢を示したといえる。交渉初日の冒頭、北朝鮮代表が「拉致問題は大筋解決した」との認識を示すと、すぐさま日本政府代表の鈴木勝也担当大使は「日本はそういうふうには認識していない。全く同意していない」と反論した。官邸や被害者家族の意向、北朝鮮に対する厳しい国内世論が背景にあったにせよ、この外務省の対「北」外交姿勢の変化を注視したい。
 日本は、拉致事件と核開発問題の解決なくして日朝国交正常化はあり得ないという原則を崩してはならない。
 
 
 
 
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