産経新聞朝刊 2002年10月25日
主張 拉致被害者 北に戻さない決定を評価
福田康夫官房長官は一時帰国した拉致被害者五人について永住帰国を前提に滞在期間を延長するという政府の方針を発表した。当然とはいえ、この決定を評価したい。
永住帰国を前提とした滞在期間の延長は、五人を北朝鮮に戻さないという国の強い意思の表れである。福田官房長官は北朝鮮に残っている家族の安全確認と帰国日程の確定を北朝鮮に求める方針も明らかにした。主権国家として正しい判断である。
政府はこれまで、拉致被害者の永住帰国問題について「本人の意思確認」を強調してきたが、拉致事件は日本の主権が侵害された北朝鮮の国家的犯罪であり、被害者本人の意思以前に、まず国として原状回復を求める意思を明確に示すべきであった。それは、拉致された被害者とその家族を一刻も早く日本に永住帰国させることである。
少し遅い判断ではあったが、この外交姿勢でこれからも北朝鮮との折衝に臨んでもらいたい。
外務省には、北朝鮮と非公式に「五人の滞在期間は一−二週間」と約束したことにこだわる幹部らがいて、五人を北朝鮮に戻すことを強く主張したといわれる。しかし、実際に家族と接してきた安倍晋三官房副長官や中山恭子内閣官房参与らは「約束といっても、そもそも拉致したのは北朝鮮だ」として五人を北朝鮮に戻すことに反対し、安倍氏らの意見が通ったようだ。日本外交が官邸主導により姿勢を正しつつあることをうかがわせる。
北朝鮮に残された家族の帰国日程についても、できれば日朝国交正常化交渉が再開される二十九日までに決定されることが望ましい。
永住帰国に備え、関係省庁が力を合わせ、被害者本人の就職や日本語の話せない子供の教育、住居など、万全の受け入れ態勢を整えておかねばならないことは言うまでもない。
拉致被害者五人とその家族の永住帰国が実現すれば、五人については原状回復といえる。しかし、拉致事件はそれで終わりではない。「死亡」とされる被害者八人の確実な安否情報の提供、八人以外の日本人行方不明者の徹底調査、横田めぐみさんの娘と確認された少女の帰国、拉致実行犯の引き渡し、拉致被害の補償など、北朝鮮に求めるべきことは山ほど残っている。
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