産経新聞朝刊 2002年9月28日
主張 小泉首相面談 家族の信頼得る対応望む
小泉純一郎首相は日朝首脳会談後初めて、拉致被害者の家族と面会し、正常化交渉にあたっては、拉致事件を最優先課題として取り上げていくことを強調した。これからも、常に家族の信頼を得られるような対応を求めたい。
首脳会談後、日本政府の家族への対応は誠意に欠けるものがあった。外務省は会談前に北朝鮮から拉致被害者八人の死亡日リストを受け取っていながら、それを家族に知らせたのは、会談から二日もたった十九日だった。小泉首相の面会も会談から十日後では、遅すぎたといえる。
二十七日の家族との面会で、小泉首相は「この問題(拉致事件)の解明なくして国交正常化はあり得ない」「日本政府として全力を挙げて取り組む」と述べた。家族から出された「二十五年間、被害者を救出できなかった歴代政権と外務省の責任」などを問う五項目の質問・要請には、明確な答えがなく、物足りなさも残ったが、首相の拉致事件解決に向けた変わらない姿勢はじかに感じ取れたのではないか。
面会に先立つ二十七日午前、外務省による家族からの聞き取り調査が行われ、各家族が持参した拉致前の本人の写真や学生証、筆跡鑑定用の手紙など思い出の品々が外務省に手渡された。二十八日から平壌入りする日本政府の拉致調査団は、これらの家族から提供された貴重な資料を有効に活用し、重ねて抜かりのない調査を求めたい。
これまでの拉致事件に関する日本政府の対応は、外務省が主導権を握り、警察当局などの意向が十分に反映されなかった傾向がある。これが事件の解決を遅らせ、家族が外務省を信用しなくなった一因ともいえる。
今度は、家族に信頼の厚い安倍晋三官房副長官を議長とする専門幹事会が発足し、拉致事件解明の実質的な指揮をとることになった。幹事会は内閣官房、外務省、警察庁、法務省、公安調査庁など関係官庁の局長級以上で構成される。家族をサポートする支援室も外務省でなく内閣官房に設置され、トップに大蔵省出身の中山恭子・前駐ウズベキスタン大使が就任する。
これからは、外務省が独走するのではなく、関係省庁が力を合わせながら、拉致事件の解決を目指して英知を結集していく必要がある。
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