産経新聞朝刊 2002年9月26日
有本さん拉致 「よど号」安部容疑者に逮捕状 結婚目的誘拐容疑
元神戸市外大生、有本恵子さん=当時(二三)=が北朝鮮に拉致された事件で、警視庁公安部は二十五日、結婚目的誘拐容疑で、日航機よど号ハイジャック事件のメンバー、安部(本名・魚本)公博容疑者(五四)の逮捕状を取った。また、北朝鮮が拉致を認めた札幌市出身の石岡亨さん=当時(二二)=と熊本市出身の松木薫さん=同(二六)=についてもよど号メンバーの妻らが拉致に関与した疑いを強め、本格捜査に乗り出す方針を固めた。公安部は有本さん事件の立件を突破口に、よど号グループによる拉致・誘拐を中心とした非合法活動の全容解明を目指す。(2面に「主張」、3、30、31面に関連記事)
◆真相解明へ政府強い姿勢、北朝鮮に身柄要求
有本さん事件について、公安部は近く国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配する一方、政府は国交正常化交渉再開に向けた局長級協議など事務レベルの折衝の中で、北朝鮮側に安部容疑者らの身柄引き渡しを要求する。公安部は拉致を認めたメンバーの元妻、八尾恵・元スナック店主(四六)と、拉致を指示した疑いの強いリーダーの故田宮高麿・元赤軍派幹部についても同容疑で近く書類送検する。
有本さんは日本政府が認定した八件十一人の拉致被害者の一人。北朝鮮は十七日の日朝首脳会談で有本さんの拉致を認め、昭和六十三年十一月四日に死亡したと日本側に伝えていた。政府は今後の交渉で、有本さんを含む拉致被害者の死因や拉致実行犯の特定などの説明を求める方針で、今回、安部容疑者らの立件に踏み切った背景には、真相解明に向けて政府の強い姿勢を示す狙いがあるとみられる。
調べによると、リーダーの故田宮元幹部は五十八年一月、故金日成主席の思想に基づき、八尾元店主に「ロンドンで若い未婚の日本人女性を獲得しろ」と指示した。
八尾元店主は同年五月、ロンドンに留学中だった有本さんに接触し安部容疑者らと共謀。七月中旬、デンマークのコペンハーゲンに有本さんを誘い出し、北朝鮮内にいる日本人男性と結婚させるため、「市場調査の仕事がある」とだまして北朝鮮外交官のキム・ユーチョル工作員に引き渡し、モスクワ経由で北朝鮮に拉致した疑い。
八尾元店主を書類送検にとどめるのは、証拠隠滅や逃亡の恐れがないと判断したため。国外逃亡犯の安部容疑者は、刑事訴訟法により時効が停止中。キム工作員は外国人の国外犯に刑法を適用することが困難なため立件を見送る。
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