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産経新聞朝刊 2002年9月21日
主張 「死亡日」隠し 許されない外務省の暴走
 
 日朝首脳会談で、外務省が拉致事件被害者の死亡日を北朝鮮から知らされていながら、その情報を隠していたことが明らかになった。許しがたい外務省の独断専行と言わざるを得ない。
 首相官邸などによると、拉致被害者八人の死亡年月日を含む非公式リストが首脳会談の始まる前に北朝鮮から示されたが、外務省アジア大洋州局幹部はこれを小泉純一郎首相に見せず、「八人死亡」の情報だけを口頭で伝えた。リストは首脳会談が終了し日朝平壌宣言に署名する直前、首相ら一部の関係者だけに示され、同行の安倍晋三官房副長官には知らされなかった。
 ここまで情報を操作する権限は外務省に与えられていない。リストを見れば、北朝鮮で有本恵子さんと同居していたとされる石岡亨さんの二人が同じ日に亡くなっており、不自然である。小泉首相が早い時間帯にこれらの事実を知っていれば首脳会談での対応が違っていたかもしれない。
 死亡年月日などの重要情報は、被害者の家族にも真っ先に伝えられなければならない。だが、外務省は当初、被害者の家族に断片情報を小出しにしただけで、死亡年月日を八人全員の家族に知らせたのは、首脳会談から二日もたった十九日である。こうした外務省の対応は「官僚的」と批判されているが、家族から見れば、肉親の情を知らず、非常識である。
 外務省の担当者は平壌市内で、生存していた蓮池薫さんらのほか、横田めぐみさんの娘とみられる女の子にも会っている。女の子が母親の写真と形見のラケットを見せたものの、担当者がテープレコーダーやカメラを用意しなかったため、めぐみさんの両親は十分な確認ができないでいる。平壌での外務省の対応にも誠意がみられない。
 外務省は少し慢心しているのではないか。日朝首脳会談が実現したのは、一年前から外務省が行ってきた水面下の折衝の成果だと思っているのかもしれないが、それは間違っている。北朝鮮をイラク、イランと並ぶ「悪の枢軸」とした米国の北風政策が、北朝鮮に拉致情報を出させたのである。
 外務省はほかにも、拉致に関する重要情報を握っているのなら、速やかに官邸の指示を仰ぎ、必要な情報を被害者の家族に知らせるべきである。
 
 
 
 
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