日本財団 図書館


産経新聞朝刊 2002年9月18日
日朝首脳会談 横田・有本さんら8人死亡 金総書記拉致認め謝罪
 
 小泉純一郎首相は十七日、日本の首相として初めて北朝鮮の平壌を訪問し、金正日総書記と首脳会談を行った。日本人拉致事件で北朝鮮側は日本政府が認定した八件十一人を含む被害者について安否を伝えてきたが横田めぐみさん=当時(一三)=ら八人が死亡、生存者は五人だった。金総書記は拉致事件を全面的に認めて遺憾の意を表明、謝罪した。これを受け両首脳は十月中の国交正常化交渉再開やミサイル発射凍結延長を盛り込んだ日朝平壌宣言に署名した。
=拉致・日朝首脳会談関連記事(2、3、5、6、7、28、29、30、31面)
 ◆「関係者処罰」生存、5人のみ
 【平壌17日=中村将】日朝間最大の懸案だった拉致問題について、金総書記は小泉首相に日本側が捜索を依頼した八件十一人を含む被害者ら計十四人の安否などに関する情報を示した。
 それによると北朝鮮側の調査で生存していると発表されたのは、昭和五十三年七月の新潟アベック拉致事件の蓮池薫さん=当時(二〇)=と奥土祐木子さん=同(二二)▽同月の福井アベック拉致事件の地村保志さん=同(二三)=と浜本富貴恵さん=同(二三)=の四人。さらに日本側が依頼していない一人の生存も伝えられた。
 「死亡」と伝えられたのは、横田めぐみさん▽原敕晁(ただあき)さん=同(四三)▽市川修一さん=同(二三)▽増元るみ子さん=同(二四)▽田口八重子さん=同(二二)▽有本恵子さん=同(二三)▽石岡亨さん=同(二二)▽松木薫さん=同(二六)=の八人。首相の同行筋によると、死亡を通告された被害者らの死因について、北朝鮮側はいずれも「病死」か「災害などによる事故死」と説明。家族にも経緯を伝える用意があるとした。
 横田めぐみさんについては娘(一六)が平壌市内で生活しているという。また、八件十一人に含まれる五十二年九月の石川・宇出津事件の被害者、久米裕さん=同(五二)=については北朝鮮に入国したことが確認できなかったとした。首脳会談の休憩時間に外務省関係者が生存者のうち四人と横田さんの娘に面会、本人確認をした。この後、小泉首相も「会いたい」と申し出たが本人らが「心の準備ができていない」としたため実現しなかった。
 小泉首相は十七日午前の会談で金総書記に対し「強いショックを受けた。厳重に抗議する。家族の気持ちを思うといたたまれない」と発言、強い姿勢で北朝鮮側の対応を促した。これに対し、金総書記は午後の会談で「拉致問題について説明したい」と初めて「拉致」という言葉を使い、事件の背景を述べた。
 金総書記は拉致は一九七〇−八〇年代初めまでの間に「妄動主義者と英雄主義者」がやったこととし、特殊(工作)機関で日本語学習をするための教官が必要だったことや、合法的な身分を利用して韓国に潜入することが目的だった、と説明。その上で、「関係者はすべて処分した。おわびしたい。二度と許すことはない」と謝罪した。
 北朝鮮側は拉致の再発防止を約束し、被害者の自由意思による帰国や、家族との面会に早急に応じることを表明した。
【写真説明】
有本恵子さん 横田めぐみさん
横田めぐみさんが死亡したとの知らせを受け、涙にくれる父親の滋さんと母親の早紀江さん。有本恵子さんの母親、嘉代子さん(中央)も沈痛な表情=17日午後6時17分、衆院第一議員会館
 ≪決意の握手≫
金正日総書記(左)と初の首脳会談を終えた小泉純一郎首相は両手で握手を交わした=17日午後5時35分、平壌市の百花園迎賓館(代表撮影)
 ≪とめどない涙≫ 
息子が生存しているとの情報を聞き、涙を流す蓮池薫さんの母親、ハツイさん(左)=17日午後5時38分、東京・麻布の飯倉公館
 ≪帰らぬ姉≫
有本恵子さんが死亡していたとの情報を受け、涙をぬぐう妹の郁子さん=17日午後6時10分、神戸市長田区
 ≪国内騒然≫
日朝首脳会談のニュースを伝える大画面を見入る通行人ら=17日午後6時13分、東京都新宿区のJR新宿駅前
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION