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産経新聞朝刊 2002年8月27日
主張 日朝協議 焦らず日本の立場を貫け
 
 日朝赤十字会談に続いて外務省局長級協議が行われたが、拉致事件に関しては今回も進展がなく、対話の継続を確認するにとどまった。小泉純一郎首相の北朝鮮に誠意ある対応を促すメッセージに対する金正日総書記からの異例の返答も寄せられたが、具体的な進展を示唆するものはなかった。
 今回の協議で、日本側は八件十一人の日本人拉致事件について「国民の生命と安全にかかわる極めて重要な問題だ。この問題を棚上げにして国交正常化はできない」と強調した。これに対し、北朝鮮側は「過去の清算の問題を中心に議論を進めたい」と日本の統治に対する謝罪と補償を求めてきた。
 北朝鮮の狙いは、拉致問題よりも補償問題を優先させ、当面の食糧支援と近い将来の経済援助を日本から引き出すことである。しかし、日本はこのペースに乗せられてはならない。拉致事件は日本の主権が侵害された重大事案であり、それが解決しなければ他の案件に入れないという外交姿勢を貫くべきなのである。
 その意味で、今回の日本側の対応は主権国家としての体面を守ったといえる。拉致事件にかかわったとされる辛光洙容疑者や「よど号」乗っ取り犯グループの引き渡しを求めたほか、北朝鮮の工作船活動にも懸念を表明した。 以前の外務省には、「(拉致された)たった十人(当時)のことで、国交正常化が止まっていいのか」と主張する幹部がいたが、今は外務省批判の高まりを受け、姿勢を正しつつある。
 拉致事件について、北朝鮮は「朝鮮赤十字会でできることはしている。政府もできる限り協力しながら、この問題に取り組んでいきたい」と説明したが、相変わらず誠意が見られない。公安警察の監視が厳しい北朝鮮で、拉致された日本人の消息が分からないはずはない。すべてを把握していながら、「行方不明者の調査」というポーズをとっていると見るべきだろう。
 講和条約発効後から始まった日韓会談は決裂と交渉再開を繰り返しながら、昭和四十年に有償・無償合わせて五億ドル(当時のレートで千八百億円)を供与する日韓基本条約が締結されるまでに十年以上かかっている。日朝国交正常化交渉も急ぐ必要はない。急ぐべきは拉致事件の解決である。
 
 
 
 
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