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産経新聞朝刊 2002年9月12日
不審船引き揚げ 小型工作船を積載 潜入・洋上取引用か
 
 海上保安庁は十一日午後、昨年十二月に鹿児島県奄美大島沖で巡視船との銃撃戦の末、沈没した北朝鮮の工作船とみられる不審船の引き揚げに成功した。船内からは母船から放出して活動する工作子船とみられる小型船が発見され、第十管区海上保安本部(鹿児島)と鹿児島県警の合同捜査本部は不審船が工作母船だった可能性が一層、高まったとみて詳しく調べる。不審船は今後、鹿児島港に運ばれ、捜査本部は今月下旬にも船籍の特定や船の構造、活動目的を解明するための本格的な捜査に着手する。(2面に「主張」、2、5、31面に関連記事)
 海保によると、小型船はエンジンとスクリュー三基を持ち、不審船船尾の観音開きの扉のすきまから確認された。平成二年十月に、福井県美浜町の海岸に打ち上げられた工作子船と似たタイプの「組み立て式小型漁船型」とみられ、捜査当局では今回引き揚げた小型船と照合する方針だ。
 工作子船について、公安当局者は「工作員をゴムボートなどで上陸させるための沿岸接近用」とみている。また、覚醒(かくせい)剤などの洋上取引の際に使われるものという見方もある。
 工作子船は「小型漁船型」と「半潜水艇」があるが、関係者の話によると、対日工作では組み立て式小型漁船が使われるケースが多いという。
 一方、不審船は船尾部分に中国漁船を装うためか、同国浙江省の港町名である「石浦」の文字が漢字で書かれていた。
 また船体やや前部にエンジン四基が前後左右に配置され、船底にはプロペラ三枚のスクリュー四基、さらにエンジンとスクリューを結ぶ異様に長いシャフト四本が設置されていた。船底前部は一般の漁船には使われない「滑走型」と呼ばれるV字の形状になっており、高速走行に適した特徴となっていたという。
 船上部にあたる船橋(ブリッジ)部は脱落していたが、船橋部には衛星利用測位システム(GPS)や磁気フロッピーなどに航跡データや工作協力者リストなどが残されている可能性が高いため、捜査本部は後日、回収作業を行う方針だ。
 海保が北朝鮮の工作船とみられる船を引き揚げたのは今回が初めて。工作船は日本人拉致容疑事件や覚醒剤密輸などにも使われたとされており、活動目的や構造の解明が急がれる。
 
 
 
 
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