日本財団 図書館


産経新聞朝刊 2002年6月30日
主張 南北銃撃戦 朝鮮半島の現実見極めよ
 
 韓国西岸の黄海で北朝鮮と韓国の警備艇が銃撃戦を展開、多数の死傷者を出す事件が起きた。二年前の南北首脳会談以降、大規模な軍事衝突は初めてだ。一時的に高まった南北融和ムードとは裏腹に、これが朝鮮半島の現実であることを改めて認識すべきである。
 韓国側によれば、北朝鮮の警備艇二隻が事実上の南北境界線となっている北方限界線を越えて南下、領海を侵犯した。このため、韓国側の高速警備艇が警告したところ、北朝鮮側が発砲、これに韓国側も応戦し約二十五分間の銃撃戦が続いた。北朝鮮側は一隻が炎上したまま北上、韓国側の警備艇一隻が沈没した。
 現場はワタリガニなどの漁場で、この時期には北朝鮮の漁船や警備艇が南下し、今年に入って十数回、領海侵犯が起きていたという。北方限界線は朝鮮戦争休戦後に設定されたが、北朝鮮はこれを認めていない。
 南北間では一九九九年六月、韓国西部沖で両国艦艇の銃撃戦が起きている。二〇〇〇年六月の金大中大統領と金正日総書記の首脳会談以後は、昨年十一月に軍事境界線の非武装地帯で偶発的な衝突が起きたのを除いて、本格的な戦闘はなかった。
 韓国が出場するサッカーW杯三位決定戦の当日に緊迫した事態の発生となった。南北首脳会談が行われたさいには、これによって一気に融和が進むという観測も流れたが、南北対立の厳しい実態が改めて明確になったといえよう。金大統領が進めてきた太陽政策の転換につながる可能性もある。
 両国にはこれ以上の拡大を防ぐよう求めたいが、問題はこうした緊張の続く朝鮮半島に隣接する日本の対応である。周辺事態法はすでに成立しているが、今国会に提出された有事関連法案は先送りが必至の情勢だ。
 韓国側によれば、今回の事態は北朝鮮警備艇が先制攻撃を加えていることから、意図的な攻撃の可能性が大きいとしている。日本周辺では北朝鮮の工作船が出没、東シナ海で海上保安庁巡視船と銃撃戦のあげく沈没した不審船の引き揚げ作業が開始されたばかりである。日本政府としては、外務省、防衛庁を中心に情報収集に努め、小泉純一郎首相の強調する「備えあれば憂いなし」の態勢を固めるべきだ。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION