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産経新聞朝刊 2002年5月5日
主張 不審船調査 雑音に惑わされず粛々と
 
 鹿児島県奄美大島沖で沈没した北朝鮮工作船とみられる不審船の引き揚げに向けた潜水調査が始まった。サルベージ会社のダイバーや潜水艇が水深九十メートルまでもぐり、海底に沈没している不審船の遺留品などを調べ、乗員の遺体などを収容している。たいへん困難な作業であることは間違いなく、調査に当たる海上保安庁の職員やダイバーの人々の苦労をまずもってねぎらいたい。
 不審船は昨年十二月の事件当時、自動小銃やロケット砲を装備、追尾して停止させようとする日本の巡視船に銃撃を浴びせている。また、逃げ切れないと判断すると、自爆して沈没したものとみられる。
 そうしたことから、単なる不審船ではなく、特定の意図をもって日本に近づいた工作船であることは間違いない。日本国民の生命や財産を守る立場からすれば、この船を引き揚げ、調査し工作船の全容を明らかにすることは当然であり、当初から調査・引き揚げの方針を貫いた海上保安庁の姿勢には敬意を示すべきだ。
 ただ気になるのは、政府内に根強く引き揚げ調査への慎重論があったとされることだ。沈没現場が中国の排他的経済水域(EEZ)内にあることから、中国を刺激したくないとの意向や、北朝鮮の工作船と確認されることで日朝交渉の支障が大きくなることへの懸念があったものとみられる。
 事実、中国は潜水調査スタートから四隻の海洋調査船が監視に当たっている。また、韓国の崔成泓外交通商相は訪韓した岡田克也民主党政調会長との会談で「引き揚げることで北朝鮮の船だと分かれば、日朝間にまた障害が増えることになり、大変懸念している」と述べたという。
 だが、こうした発言は本末転倒も甚だしい。障害を増やしているのは不審船を送り込み他国の主権を侵害しようとしている国であり、障害を除去するためにも徹底した調査を行うべきだ。相手を刺激しないことだけが真の外交でないことも言うまでもない。
 潜水調査はこうした雑音に惑わされることなく、粛々と進め、安全裏に引き揚げにまでこぎつけなければならない。また、政府は近隣諸国に日本の立場を堂々と説明し、調査に支障のない環境を整備する必要がある。
 
 
 
 
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