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産経新聞朝刊 2001年12月23日
主張 不審船射撃 国家主権を守った措置だ
 
 海上保安庁の巡視船が東シナ海の公海上で北朝鮮工作船とみられる不審船に射撃を行い、不審船は沈没した。海上保安庁法第二〇条(武器の使用)に基づき、犯人の逃走を防止するため、船体に威嚇射撃したところ、発砲され、応戦となった結果という。正当防衛としての武器使用であり、国家主権を守るための許容範囲の措置である。
 国連海洋法条約第一一〇条(臨検の権利)では、公船である巡視船は公海上で国籍を有していない外国船舶に対して、臨検を行うことが認められている。巡視船「いなさ」は、国籍不明の不審船に対し、停船を命じたものの、応答なく逃走したため、威嚇射撃を行ったわけだが、こうした実力行使は、臨検の権利の行使といえる。
 船体射撃が行われたのは昭和二十八年八月に旧ソ連の情報収集船に向けて行われて以来、四十八年ぶりのことである。不審船に対しては国家の断固たる姿勢を示すことにためらいがあってはならないだろう。
 平成十一年三月、能登半島沖で日本漁船を装った北朝鮮の不審船二隻が発見され、自衛隊による海上警備行動が発令されたにもかかわらず、取り逃がした経緯がある。この教訓を踏まえて、今年十一月には巡視船や護衛艦による不審船への船体射撃を可能とする法改正が実現した。
 しかし、この法改正における武器使用は領海内での不審船を対象としている。このため、公海上である今回の事件には適用されず、正当防衛・緊急避難というこれまで通りの警察官職務執行法を準用した。海上保安庁や自衛隊がはじめから、両手両足を縛られたまま行動していることを相手は熟知していたのではないか。政府は来年一月の通常国会で有事関連法案を提出する予定だが、武器使用に関する法的な不備をただすことが急務である。
 北朝鮮は最近、「日本人『行方不明者』の消息調査」を中止した。今回は、中国船に偽装した工作船を日本近海に派遣した可能性が強い。公然たる違法活動は絶対に看過されるものではなく、徹底した真相解明が必要だ。
 日本側の行為に対しては過剰反応との批判も起きようが、違法な行動への毅然(きぜん)とした姿勢をとることこそが再発を防ぐ道である。
 
 
 
 
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