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産経新聞朝刊 2000年11月10日
社説検証 拉致問題と日朝関係 産経 拉致犯の無条件送還は困る
 
 ■日朝外相会談−バスに飛び乗るのは危険
 日本との関係では、日本人七件十人の拉致疑惑、テポドン発射、北工作船の日本領海侵犯など、国の主権にかかわる重大な問題について、北朝鮮側は何ひとつ誠意ある姿勢を示してはいないのだ。
 対北外交で「バスに乗り遅れるな」意識は禁物であり、国としての対応を誤るおそれがある。(7月19日)
 ■南北相互訪問−拉致犯の無条件送還は困る
 彼(辛光洙・元服役囚)は北朝鮮の工作員として韓国で活動中の一九八五年、スパイ容疑で逮捕され服役した。韓国での裁判などを通じ、一九八〇年当時、日本の大阪で中華料理店の日本人男性を拉致し宮崎の海岸からひそかに北朝鮮に送り出したことが確認されている。
 日本政府はこれまで韓国政府に対し事情聴取など調査への協力を要請してきたが実現していない。
 このまま北朝鮮に送還された場合、韓国政府はテロリストに対する罪の追及という国際的な慣例と、友好関係にあるはずの日本の立場を無視したことになり、批判は免れない。(7月26日)
 ■米朝関係改善−日本はじっくりと対応を
 北朝鮮の思惑通り、日本では早くも関係改善を急ぐべきだという「バスに乗り遅れるな」論が出ているが、今回の米朝会談でも明らかなように、急いでいるのは北朝鮮である。
 北朝鮮が米国や日本をはじめ国際社会で「安心できる国」として評価されるためには、この問題で具体的な態度を示さなければならない。それが「よど号」乗っ取り事件犯人の日本送還であり、日本人拉致問題の解決であり、さらには大韓航空機爆破事件や全斗煥大統領暗殺未遂(アウンサン廟爆弾テロ)事件など韓国に対する公式謝罪である。(10月15日)
 ■日朝関係−「後手」で高まる日本の価値/あわてさせるのが北の戦略
 日朝の特殊関係とは、北朝鮮側の言葉でいえば戦前の日本統治にかかわる「過去の清算」という特殊な課題があるということだ。
 たとえばこれを北朝鮮側の国民感情にかかわる問題とすれば、日本側にも日本人拉致疑惑という国民感情にかかわる問題がある。いずれも外交的に難題である。
 したがって日本がバスに乗るのが遅れるのは当然だし、遅れても構わない。いや場合によっては最後になってもいい。それを恐れる必要は全くない。(10月23日)
 ■森首相発言−説明責任果たし国益守れ
 拉致疑惑は、日本に北朝鮮工作員がもぐり込んで日本人を違法な手段で連れ去ったという凶悪事件である。国家の主権が侵害され、日本人の生命や安全を守るという国家として最も重要な責務を果たせなかったことが問われているのである。
 これを「行方不明者として第三国で発見」ということでよしとするなら、政治決着の手法としてはあり得るのかもしれないが、主権侵害の事実は棚上げにされてしまう。こうした非道なテロ行為は断じて許さない姿勢を貫く国であるということを国際社会に示すのが、日本の国益に合致するものではないのか。
 (10月26日)
 ■拉致疑惑−野党は何をしてきたのか
 国会では、森喜朗首相の「第三国発見」発言をめぐり、各野党が競って首相の姿勢を追及しているが、「今まで、野党は何をしてきたのか」という問い掛けも提起したい。
 徹底追及すべき相手は日本の首相ではなく、北朝鮮なのである。(10月27日)
 ■日朝交渉−あせる必要さらさらない
 北京で開かれた日朝国交正常化交渉は、事前の予想通り、これといった進展のないまま終わった。
 最大の問題である日本人の拉致疑惑に対して、北朝鮮側が何ら誠意ある態度を示そうとしない以上、これでいいと考える。日本側があせる必要はまったくないのである。
 国際的な対北融和ムードを受けて、こうした流れに乗り遅れまいとする主張が日本の一部に出ているが、とんでもないことである。われわれが繰り返し強調してきたように、拉致疑惑は日本の主権が侵されたという重大な意味が込められているのであって、これをないがしろにしたら、国家の尊厳そのものを揺るがすことになってしまう。(11月1日)
 
 
 
 
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