産経新聞朝刊 2000年11月10日
社説検証 拉致問題と日朝関係 日経 政争絡めば遠のく拉致疑惑の解決
■理解に苦しむ野中発言
自民党の野中広務幹事長が二十七日、東京都内で講演し、ロシアとの平和条約交渉、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化交渉に関し、前提を設けずに進めるべきだとする見解を表明した。北方領土問題や日本人拉致疑惑の棚上げを意味するとすれば、私たちは理解に苦しむ。
北朝鮮に関する部分は、拉致疑惑と切り離してコメ支援を検討する河野外相の姿勢と軌を一にするが、切り離し政策に国内の合意があるのだろうか。与党内にも異論があると聞く。北朝鮮経済の現状を考えれば、バスに乗り遅れる心配は要らない。日本が乗らなければバスは出発できないのが実情だからである。
与党の実力者が外交の分野で犯した過ちとしては金丸信氏の「戦後の償い」がある。九〇年に北朝鮮を訪問した金丸氏は、この言葉を共同宣言に盛り込み、厳しい批判を受け、影響力を失うきっかけとなった。外交に関しては国内問題以上の慎重さが求められる。それなしには危ない結果を招くおそれがある。
(7月29日)
■離散家族再会の熱意を拉致疑惑にも
北朝鮮の金正日総書記が日本人拉致疑惑について「日本は不当な解明を要求している」と述べたことには首をかしげざるを得ない。背景は異なるとはいえ、拉致疑惑は離散家族と同じ人道問題である。北朝鮮に調査の誠実な実施を改めて促したい。
疑惑解明を主張し続けるのは、この種の事件は主張し続けないと、やみの中で風化してしまう可能性があるからである。二十一日から再開される日朝正常化交渉では少しでも前進があることを望みたい。
(8月16日)
■なぜ50万トンの支援なのか
五十万トン支援によって拉致問題が前進する可能性があるならば、黙認もできよう。しかし北朝鮮は日本が拉致問題にこだわれば、「行方不明者」の調査もうち切ると圧力をかけてきている。
日本が焦る必要は少しもない。「拉致問題を解決せずして国交正常化はありえない」との基本姿勢を堅持してほしい。(10月8日)
■北朝鮮国交樹立は懸案解決を前提に
日本はあくまでも日本の立場を貫くべきである。拉致疑惑の解明なしに、国交を正常化させるべきではない。日本は各国に日本の立場について了解を求めるとともに、北朝鮮との間では何とか知恵を絞って解決の糸口を見いだせるよう粘り強く努力してほしい。何度も言うが、あせる必要はない。(10月21日)
■米国は関係改善の原則を貫け
北朝鮮の外交路線の基本は「経済は韓国と日本」「軍事と和平は米国」という使い分けである。
日本も懸案である拉致疑惑問題を抱え、日朝正常化交渉が難航している。こうした中で米朝関係が大きく先行することは、三国連携を進める上でも好ましいものではない。
(10月25日)
■政争絡めれば遠のく拉致疑惑の解決
首相発言をめぐる日本国内の議論には多分に感情論的な要素がある。
論点を整理する必要がある。
第一に、発言によって被害者を救出する選択肢が狭まったのか。それを完全には否定できないが、直ちに大きな影響を与えるものではない。
第二に、首相がこれをブレア首相に話し、上野官房副長官が公表したのが不適切だったのか。
首脳会談での発言を隠し続けるのは難しく、時間がたってから明るみに出れば政治的に一層まずい結果になったろう。
第三に、主権侵害をあいまいにしたとの批判の妥当性である。金大中事件との連想で主権侵害との議論が展開される。韓国の公権力が韓国の政治家を日本国内で拉致したとされる事件とはやや違い、日本人拉致で問題にすべきは、主権侵害以前に日本の刑法違反である。
拉致問題の解決には、主権侵害を声高に叫ぶよりも、これを先進国にとって共通の課題であるテロ、人道問題として扱い、日米韓の連携を深める方が効果的だろう。このためには国内の結束が重要となる。野党が様々な問題と絡めて首相の資質を問うのは当然だが、拉致問題と絡める手法は、問題解決を遅らせる危険をはらんでいる。(10月26日)
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