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産経新聞朝刊 2000年11月10日
社説検証 拉致問題と日朝関係 朝日 交渉再開、ともにバスを動かそう
 
 ■日朝交渉再開−ともにバスを動かそう
 「バスに乗り遅れるな式に急ぐな」という論がある。確かに日朝間には、拉致、ミサイル開発、不審船など固有の問題がある。こうした問題の解決はゆるがせにできない。しかし、固有の問題にとらわれるあまり、北朝鮮の外交姿勢の転換や国際情勢の変化への適切な対応を怠れば、大局を誤る。
 日本は東アジアの先進国であり、大きな経済力を持つ。日本の主体的な外交は、東アジアの平和と安定に大きく貢献できる。だれかの運転するバスに飛び乗るのではなく、他の当事国とともに、日本がバスを動かす。その自覚が必要だ。(7月28日)
 ■日朝交渉−知恵を絞る時期だ
 日本人拉致疑惑やミサイル開発問題などで、北朝鮮に重ねて前向きな対応を求めたのは当然のことだ。北朝鮮側は今回、「拉致問題などは存在しない」としつつ、不快感をあらわにして日本側を強く非難するようなことはなかった。そのことにも注目したい。
 日朝双方がたとえ一歩ずつでも歩み寄る。回り道のようでも、そうした姿勢を大切にすることが正常化の展望を開く道だ。(8月25日)
 ■国務長官訪朝−半島の冷戦に終わりを
 米朝の関係改善は、すでに韓国との国交を樹立した中国、ロシアにも歓迎されるであろう。そうなると、日朝関係の改善がいよいよ差し迫った課題となってくる。
 国内には「北朝鮮は日本の資金を欲しがっており、日本側から関係改善を急ぐ必要はない」という議論が広がっている。
 朝鮮半島をめぐる事態の展開にあわてる必要はない。拉致疑惑もある。だが、「負の遺産」の清算を先送りする姿勢は、国際社会の中で生きる国としては許されない。
 日朝交渉もまさに正念場を迎える。
 (10月13日)
 ■拉致疑惑発言−首相のこの軽さよ
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による日本人拉致問題をめぐり、首相が「行方不明者として第三国で発見する」との打開策を、ブレア英首相に明かした。
 日朝間の国交正常化交渉が緊迫した局面を迎えようというときだ。拉致疑惑という、慎重の上にも慎重な取り扱いが求められる微妙な問題をめぐるやりとりを、なぜ、首相は明かしたのか。
 英国やドイツが次々に北朝鮮との国交樹立を打ち出す中、首相には、ひとり日本が置き去りにされることへの焦りがあったのか。拉致疑惑という難題を抱え、交渉が一筋縄ではいかない日本の立場への理解を求めることに本意があったのかもしれない。
 そうだとしても、拉致問題とはかかわりのない英国に、拉致された人たちの救出策として関係者の間でひそかに検討されてきた手立てを説明する必要がどこにあったのか。
 今回の首相の発言によって、拉致疑惑の解決に向けて日朝間で柔軟に妥協点を探る可能性が遠のいたことは否定できまい。
 首相のあまりの軽率さにがく然とする。それ以上に、こうした指導者を抱いている現実が、もの悲しい。(10月22日)
 ■首相発言−政権の炉心が溶ける
 首相は党首討論の中で、「第三国での発見」の提案を「過去の話だ」と片づけた。しかし、「拉致問題は、そうした形で解決策を探るしか突破口は見いだせまい」と判断する関係者は少なくない。
 現に、河野洋平外相は記者会見で、今も政府として選択肢から外したわけではないことを示唆している。この食い違いをどう説明するのか。
 拉致疑惑をめぐる首相発言や、その後の対応の右往左往ぶりを見ると、そもそも、この政権が難しい局面を迎えた日本外交を担うことの危うさを痛感する。
 月末には北京で、日朝国交正常化交渉が予定されている。今回の首相発言によって、日本外交の底の浅さが丸見えになった。交渉力の低下は避けられないだろう。
 (10月26日)
 
 
 
 
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