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産経新聞朝刊 2000年11月10日
社説検証 拉致問題と日朝関係 読売 原則的な立場を堅持して臨め
 
 ■日朝外相会談−原則を踏まえた交渉が大切だ
 安易に変化のムードに流されてはならない。拉致問題など日朝間の懸案はもとより、地域の安全保障や、将来の国際秩序にかかわる。日本としては、日米韓三国の協調を堅持して、日朝交渉はじめ地域の外交に取り組むことが肝要だ。
 日本人拉致問題は、人道上も、国家主権の侵害という点でも許容できない。北朝鮮の金正日総書記が最近、「日本との国交正常化を望む」とする一方、「まず『拉致』という話をやめよ」と発言したと伝えられるが、拉致問題を棚上げして交渉を進めることは出来ない。(7月27日)
 ■日朝交渉再開−原則的な立場を堅持して臨め
 日本人拉致という国家主権の侵害を認めず、ノドン・ミサイル配備などで現実に日本の安全に脅威を与えている現状では、正常な国家関係は持てない。
 金正日総書記は、「自尊心を曲げてまで国交正常化はしない」と語ったという。これは、むしろ日本側が口にするにふさわしい言葉だ。政府は、毅然として日本の原則的立場を貫いてもらいたい。(8月21日)
 ■コメ支援−不可解な千二百億円もの負担
 なぜ、これほどの支援なのか。政府の決定は、不可解としか言いようがない。
 河野外相は、六月の南北首脳会談以後の朝鮮半島をめぐる情勢の変化を後押しするため、あえて踏み込んだ支援を行うのだと言う。これまでの人道名目の支援にとどまらず、政治判断に基づく支援に重点を移したということなのだろう。
 それなら、北朝鮮が、日朝国交正常化交渉を大きく進展させ、日本人拉致やミサイルなどの問題でのかたくなな姿勢を改めるという見通しがあってしかるべきだ。
 しかし、現実には、拉致やミサイルなどの問題に前進の兆しは見えない。地域の安全保障環境を改善する動きもない。
 単なる期待感だけから前例のない大規模支援に踏み切るのでは、あまりに安易かつ無責任ではないか。
 (10月7日)
 ■拉致発言−森首相の不見識を深く憂える
 米国のオルブライト国務長官が訪朝し、英独など欧州主要国には北朝鮮との国交樹立の動きが広がっている。
 日本には、こうした動きに乗り遅れるなという主張もある。
 だが、欧州と違い、日本は北朝鮮のミサイルや核開発疑惑などで安全保障上の脅威を直接受けている。国家主権にかかわる拉致問題であいまいな決着は許されない。
 日本が焦る必要はない。森首相は腰を据えて、日本の平和と安定という最大の国益を守る責務を果たせばよいのである。(10月24日)
 ■日朝交渉−一括処理は曲げられない原則だ
 日本人拉致問題や日本を射程に入れるノドン・ミサイルなど、日本の安全や国家主権にかかわる日朝間の重要案件には目に見える進展はなかった。
 経済協力だけが先行したのでは、拉致問題が棚上げにされる恐れがある。
 金正日総書記が自らの権力の源泉と公言する軍事力と独裁体制の強化につながる可能性もある。そうなれば、日本や地域の安全保障が今以上に脅かされる。
 補償問題などと、拉致問題やノドン・ミサイルの開発、配備の停止などの一括処理という主張は、日本とすれば当然だ。
 日本側としては、経済協力という最大の切り札を温存しつつ、北朝鮮につけ入るスキを与えないことが重要だ。
 共産党の不破委員長の発言も疑問だ。不破氏は、「政府は確たる証拠を示していない」として、拉致問題の解決を国交正常化の絶対条件には出来ないとの見解を表明した。これでは、「拉致問題を取り上げるべきではない」とも聞こえる。(11月1日)
 
 
 
 
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