日本財団 図書館


産経新聞朝刊 2000年11月10日
社説検証 拉致問題と日朝関係 毎日 首相発言、開いた口ふさがらない
 
 ■日朝外相会談−日本の原則を明確に語れ
 河野外相は白外相との会談で、拉致疑惑などには直接触れず、「われわれが懸念を持っている問題があることはお分かりですね。これ以上は言いません」と述べるにとどめた。
 日朝外相の直接対話は、今回が初めてだ。それもARF(東南アジア諸国連合地域フォーラム)という多国間協議の場を利用しての会談である。河野外相は日本側の原則を、明確な言葉で話すべきだった。(7月28日)
 ■日朝交渉−拉致疑惑解決は外せない
 拉致疑惑に関して首をかしげるような発言が一人の政治家の口から飛び出した。
 日朝友好議員連盟の新会長に就任した自民党の中山正暉氏が8日の記者会見で「国交を正常化させ(日朝両国が)関係を深くしていったら、おのずからそういう問題は明らかになっていくのではないか。拉致を前提に置くと何も進展しなくなってしまう。その辺の呼吸は微妙だ」と語ったのだ。
 その意味するところは、拉致疑惑の解決を日朝国交正常化交渉の前提条件とはしない方がいい、それよりも国交を先に結び両国の交流を進めていく中で真相を究明していく、というものだ。
 中山氏の発言は、議連としての正式な方針ではなく、会長個人の見解を披露したもののようだが、とても賛成できる内容ではない。中山氏の論に従えば、拉致疑惑を棚上げすることになりかねない。
 北朝鮮に関しては、かつて自民党の金丸信氏(故人)らが日本の外交方針から外れ、「戦後の償い」を北朝鮮に約束し、大問題になったことがあった。
 バスに乗り遅れるな式に事を急いで方向を見誤ってはならない。(8月10日)
 ■「拉致犯」帰国−到底納得できない措置だ
 85年当時、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は「容疑者(辛元服役囚ら)はわれわれや朝鮮総連とは何の関係もない」と主張していた。ところが今回、北朝鮮側は一転して「民族の英雄」として受け入れた。
 これは納得できない事態である。拉致事件の実行犯は自由の身となり、「英雄」として祖国へ帰った。しかし、被害者の行方や生死は、今もって分からない。こういう不条理が許されてよいはずがない。
 北朝鮮側は拉致について「そのような問題は存在しない」という公式答弁を繰り返してきた。しかし、今後はそうもいくまい。北朝鮮は「英雄」が犯した罪悪の重みを改めて認識すべきだ。(9月4日)
 ■首相軽率発言−開いた口がふさがらない
 日本があわてることはない。北朝鮮は、対米関係の正常化を最優先の外交戦略にしており、対日関係の正常化をそれより後に考えていることは自明である。
 いまこそ日本は、米韓両国との協力を密にしながら、忍耐強く正門をたたき続けるべき時だ。あわてて裏門を探し回っているかのような印象を与えてはならない。
 (10月22日)
 ■日朝交渉−司令塔がふらふらするな
 北京で行われていた日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の第11回国交正常化交渉が終わった。
 国民が心配しているのは交渉の遅れではない。土俵の外の司令塔がふらついているのではないかと懸念しているのである。
 米大統領の訪朝が決まれば、北朝鮮は、日朝交渉を足踏みさせる戦術に出ることも十分予想される。
 どのような展開になろうと、肝心なのは、日本が「過去の清算」に対して誠意を持って当たるという基本姿勢を崩さずにいることである。(11月2日)
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION